人口減少、高齢化が進む地域がほとんどの状況下で医療機関が生き残るためには、地域共生社会づくりに貢献する「とことん地域住民に寄り添う姿勢」が求められるのではないでしょうか。都道府県が設置する地域医療構想調整会議の議論を気にしている時間があったら、地域住民の医療・介護等のニーズ把握に時間を費やすほうが生産的でしょう。
佐賀県の有明海沿いの鹿島市に所在する社会医療法人祐愛会織田病院は、病床数が111床と小規模であるにもかかわらず、急性期から在宅医療まで担っており、とことん地域住民に寄り添ったサービスを提供しています。病院の設立理念は『悩める者への光明を』であり、『日本一の気配り病院』を目指しています。
多くの病院がひしめく大都市では、病院間の機能分担と連携は政策として当てはまりますが、鹿島市のように約3万人規模の地方都市においては、中小病院が医療から介護まですべての機能を担わなければなりません。以下、週刊医学界新聞の2020年6月29日付けの第3377号に寄稿されている同院の織田良正総合診療科部長の説明や、織田正道理事長の講演資料を引用し、同院の“とことん”の取組を紹介します。
地縁・血縁のない地域に引っ越しをした場合、かかりつけ医をどのように探すか?
インターネットで検索をして探す人が多いと想像しますが、かかりつけ医の意義や、かかりつけ医としてどのような疾病の患者にどのようなスタンスで取り組んでいるか、他の医療機関の違いをわかりやすくホームページに掲載しているような医療機関はあまり見たことはありません。また健診や予防接種を受けたいが、金額を事前に知りたいと考えて調べようとしても、金額や細かい検査内容までは掲載していない医療機関はまだまだあります。また医療機関の連絡手段のほとんどが電話です。
医療機関には、健康面で不安を抱える地域住民が集まってきます。公的保険内では解決できない悩みは多いと思います。他業界の取組を参考にするとともに、利用者の視点で既存サービスの改善や拡大を検討すれば、まだまだすべきこと、できることはたくさんあるのではないでしょうか?
災害が発生した際の対応や事前の備えについては、日本医師会の救急災害医療対策委員会が2018年2月にまとめた「地域の救急災害医療におけるかかりつけ医の役割―地域包括ケアシステムにおける災害医療を中心に」をテーマにとした報告書が参考になります。
報告書では、災害対策基本法に基づく地域防災計画で災害時のかかりつけ医の役割が位置づけられていないことや、医師会が災害時のかかりつけ医機能推進策をとっていないことを問題視しています。
災害に対しては、医療、介護、福祉、在宅関連事業者や行政機関、地域住民まで、共通の危機感をもっています。災害への備えをテーマにして積極的にコミュニケーションをはかり連携関係を構築していくことは災害の予防対策につながりますし、自院の特徴や院長の性格・考え方などを含めて関係者に伝えることのできる格好の機会になるのではないでしょうか。
「Withコロナ時代」が長期間に亘れば、オンライン診療という新たな選択肢が長期間利用され普及することで、時限的・特例的という制限は雲散霧消してしまい、特に再診患者については利用するのが当たり前になってしまう可能性はないとは言えません。
LINEヘルスケアのサービスは、現時点においてはLINEの8,400万人という利用者向けの「遠隔健康医療相談」機能の提供で留まっていますが、今後は図表のように相談者の居住地近隣のエムスリーの医師会員等の医療機関の紹介及び「診療予約」、その後の通常診療や「オンライン診療」、薬剤師会員が運営する薬局等による「オンライン服薬指導」といったサービスが一気通貫で繋がる可能性が見えてきます。
これまで海外と比較して進んでいなかった日本のテレワーク、オンライン教育・学習・研修や、紙とハンコ文化などが一気に変化する兆しがあり、さまざまな分野・業種で想定していなかったパラダイムシフトが起こりそうです。医療の分野も例外ではないでしょう。医療機関の経営者は「Afterコロナ時代」を見据え、「Withコロナ時代」の間に準備をしておく必要に迫られているのではないでしょうか。
オンライン診療を顧客目線でみると、事前に24時間インターネット予約が可能で、希望する日時に受診できる、通院時間や受付での待ち時間と交通費が必要ない、仕事や家事の合間に診察を受けられる、院内感染・二次感染のリスクがない、周りの目が気にならない(心療内科や精神科などの場合)、自宅に処方箋や薬が届く、支払いは簡単にクレジットカード決済などキャッシュレスでできるなど、多くのメリットがあります。
忙しい会社員、幼児や要介護者がいて気軽に外出しづらい主婦、けがをしていたり要介護状態であったりして外出が困難な方にとっては、対面診療と比較して医療の質が多少落ちたとしても、オンライン診療のメリットの方が大きいと感じるように思います。もちろんターゲットとする顧客層によりますが、医療機関としてこのような顧客ニーズを無視するのは難しそうです。早いうちに患者に対して対面診療だけではなくオンライン診療も選択肢として準備しておく必要はあるのではないでしょうか。
オンライン診療を顧客目線でみると、事前に24時間インターネット予約が可能で、希望する日時に受診できる、通院時間や受付での待ち時間と交通費が必要ない、仕事や家事の合間に診察を受けられる、院内感染・二次感染のリスクがない、周りの目が気にならない(心療内科や精神科などの場合)、自宅に処方箋や薬が届く、支払いは簡単にクレジットカード決済などキャッシュレスでできるなど、多くのメリットがあります。
忙しい会社員、幼児や要介護者がいて気軽に外出しづらい主婦、けがをしていたり要介護状態であったりして外出が困難な方にとっては、対面診療と比較して医療の質が多少落ちたとしても、オンライン診療のメリットの方が大きいと感じるように思います。もちろんターゲットとする顧客層によりますが、医療機関としてこのような顧客ニーズを無視するのは難しそうです。早いうちに患者に対して対面診療だけではなくオンライン診療も選択肢として準備しておく必要はあるのではないでしょうか。
不安を抱えているかかりつけの患者に対して積極的に安心を与えることは、患者の自院への固定客化を図るためにも大切なことだと思います。
安心を与えるためには、自院の状況をまず知らせる必要があります。4月7日に政府が7都府県に対して緊急事態宣言を出しました。数日後に対象地域の診療所のホームページを10か所程度調べた限りでは、ほとんどの医療機関は厚生労働省が発信している受診の目安や帰国者・接触者相談センターへの相談方法程度の情報発信であり、自院のかかりつけの患者への対応方針等の情報は非常に乏しい状況でした。
患者としては自らのかかりつけ医療機関が、感染予防のために密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、密集場所(多くの人が密集している)、密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)という感染を拡大させるリスクが高まる3つの条件に対してどのような対策を講じているのか、消毒などの衛生管理をどのようにしているのかを知りたいところです。
地域住民への認知度を高めるためには地道に情報を収集・分析・発信する作業を、長期間継続することが必要です。
ただ今回の新型コロナウイルスについては、かかりつけ医がクローズアップされたため、病気に関する情報をわかりやすくタイムリーに提供することで、かかりつけ医をもたない地域住民を自院の新規患者にする大きなチャンスだったかもしれません。
例えば、一般の人はほとんど見ることのない厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A」の内容を抜粋し、自院のWebsiteに簡潔明瞭な表現にして掲載するなど、ひと手間かければできることです。
オウンドメディアによる継続的な発信は、地域に根差したサービスを永年に亘って提供する医療機関には適した手法です。多少の労力はかけないといけないですが、費用はそれほどかかりません。継続的に取り組んでいる医療機関はまだまだ少ないことから、地域住民からかかりつけ医療機関として選ばれるために取り組まれてはいかがでしょうか。
4月から携帯電話大手が順次、第5世代(5G)の移動通信システムを本格導入します。
医療分野における5Gの技術面での期待は大きく、普及に向けては導入時とその後の運用費用の負担の問題、遠隔診療に関する診療報酬上の規制の壁の問題が立ちはだかります。
せっかくの技術を充分に活かすのか、宝の持ち腐れにするのかは、政府の方針次第です。具体的には、働き方改革や医師の偏在等の課題、生活習慣病患者の増加などの課題を解決するために、「対面診療の原則」にこだわらずICTを活用した診療を積極的に取り入れる決断をするかどうかです。
いずれにしても各医療機関は、5Gの普及が進む2年後以降の診療報酬改定に備えるために、遠隔診療の技術動向や今後の実証実験の結果などについて、継続的に情報収集をすることは欠かせないでしょう。
日本には、会社が世のため人のために存在するという考え方、近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように、当たり前の考え方として脈々と受け継がれています。
世界全体の会社のうち、200年以上持続している会社の約半分が日本にあるという事実が、これを証明しているのかもしれません。
医療サービスは、地域共生社会、地域包括ケアシステムに不可欠な地域のインフラストラクチャーであり、当然、持続可能性が高いことが期待されています。地域密着型の医療機関として、地域住民のため、持続ある社会システムのために、自院の経営にSDGsの考え方を積極的に取り入れ、外部にアピールすることを検討されてはいかがでしょうか。