IMC株式会社  池田医業経営研究所

休業日:年末年始

対象地域:全国

お気軽にご相談ください

http://feed.mikle.com/

医師による医療分野のイノベーション事例

医師や歯科医師の皆さんは、医師法及び歯科医師法の第一条に何が書かれているか覚えていらっしゃいますか。医師・歯科医師の役割について記載されており、その内容は「医師(歯科医師)は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」です。

医学部を卒業し医師国家試験を合格し臨床研修を修了した後、数年後に起業をする医師が現れてきています。臨床現場の医師不足を考慮すると、起業をする医師が増えるのはいかがなものかと考える方もいらっしゃるかもしれません。ただ起業の目的が国民の健康な生活を確保することでしたら、医師としての役割を果たしていると言えるでしょう。

前々号で紹介したオンライン診療サービス分野のほかに、医師が代表を務め、医療分野のイノベーションに貢献している2つの事例を紹介します。

 

まずは『アプリで治療する未来を創造する』をビジョンとして掲げているキュア・アップという会社です。社長は、慶應義塾大学医学部卒、日本赤十字社医療センターなどで臨床業務に従事し、呼吸器内科医として診療に携わっていた佐竹晃太氏です。同社が開発しているニコチン依存症治療アプリ「CureApp禁煙」はすでに治験を完了し、2019年上期に承認申請し、年内に治療アプリの薬事承認第1号、保険適用第1号になる見通しのようです。

治療アプリのアプリとは、スマートフォンやパソコンなどに入れて使えるソフトウェアで、正式にはアプリケーションと呼ばれるものです。スマートフォンをお持ちの方はご存知でしょう。治療アプリは、クラウドとアプリによるITシステムが患者の自己管理を手助けし、医師をサポートして病気の治療を行います。「行動変容」という既存の医薬品や医療機器とはまったく異なったアプローチで治療をします。

具体的には、治療アプリは患者と医師の双方から得たデータをもとに独自の解析処理を行い、医学的な根拠(エビデンス)に基づいた治療ガイダンスを患者のスマホに送ります。患者にとっては、通院して医師から指導を受けてから数日経過すると、三日坊主で止めてしまいがちですが、個々の患者のスマートフォンに個別化されたタイミングで行動変容を促す治療介入が行われることで、自己管理を続ける意欲が維持され、結果的に治療の効果が上がります。一方で医師にとっては、治療アプリによって患者の日々の記録が蓄積されることで、来院時に医師はその情報をもとにしてより患者に的確な治療や指導ができます。患者は診察時に、自己管理をさぼっていた場合に必ずしも正直に話さないかもしれませんが、治療アプリの情報である程度の事実がわかります。また必要に応じて、患者の病気の状態に合わせて、生活実態や日々の体調を踏まえたリアルタイムの個別対応も可能になります。

 

日本人の三大死因であるがん・脳血管疾患・心疾患、更に脳血管疾患や心疾患の危険因子となる動脈硬化症・糖尿病・高血圧症・脂質異常症などはいずれも生活習慣病であるとされています。生活習慣病のほとんどは、患者が食事や運動・喫煙・飲酒・ストレスなどの生活習慣などを適切にすることによって病気の進行を抑えることができます。またアルコールや薬物などの依存症やうつ病のような精神疾患も、治療プロセスで行動変容が必要になります。

ちなみにアメリカでは2010年に糖尿病患者向けの治療補助アプリが医療機器として承認取得を得て、大手民間保険会社に保険償還の対象として承認されています。日本においても、かなり近い将来、“医師が臨床の現場でアプリ処方する”ことが普通になるかもしれません。治療アプリは、これまでの薬物療法、手術療法、放射線療法などとは全く異なる治療方法であり、大きなイノベーションと言えるでしょう。生活習慣病は今後の日本の医療費増大に与える影響は大きいため、早期の普及が期待されます。

 

次は、企業ではありませんが医療法人として社会インフラ、医療インフラづくりまで取り組んでいる北原病院グループです。北原病院グループは、カンボジアへの「病院まるごと輸出」で有名ですが、地元の東京都八王子市において、安心・安全・快適・健康な生活を送れるよう、医療の枠にとらわれず、地域の人々の生活をトータルで支えるシステム「トータルライフサポートシステム」と「デジタルリビングウィル」というサービスを提供しています。

医療法人社団 KNIWebsiteによれば、本サービスは会員登録制の個人の意志情報、医療情報・生活情報(本サービス内では「デジタルリビングウィル」と呼ぶ)をもとに包括的な生活サポートをしています。具体的には信頼できる救急病院と連携して自身の健康状態から想定される医療行為や突然の事故、病気の際の緊急処置など様々な状況に際して、自分にとって最も望ましい対応(検査や治療の承諾、延命治療の有無など)を事前に登録しておくことによって、いざという時に速やかな対応がなされます。また本サービスにかかる費用や協力医療機関での医療費の支払いをキャッシュレスで可能とするサービス「トータルライフサポート信託」が三井住友信託銀行株式会社の提供により利用可能になります。

本サービスでは基本健診パックなどの医療・介護サービスはもとより、会員のみが利用できるオプションサービスとして「成果保証型リハビリテーション(医療保険の枠を越えた利用者独自の目標を達成するためのリハビリテーション)」や「目標達成型ライフサポートサービス(介護保険の枠を越えた利用者独自の目標を達成するためのライフサポート)」などの提供を行うことで、病気になる前と病院を退院した後の生活全般を支えていくサービスになっています。

また会員はオプションとして北原病院グループのコールセンターに電話するだけで宅配、ペットケア、自宅のメンテナンス、家電の修理販売、最終的には自分のお葬式まで、必要とする全てのサービスを受けられるようになります。

本取組は、高齢化の進展、高齢者等の独居の増加、普及が進まないリビングウィル、公的医療保険財政が厳しい環境下で求められる保険外サービスなど、課題先進国の日本の解決策となるイノベーションと言えるでしょう。