IMC株式会社  池田医業経営研究所

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カスタマー・サクセスの取組み事例

顧客満足から一歩進んだ考え方であるカスタマー・サクセスについて、前月のブログで説明しました。高級ホテル業界のようなサービスの質の競争が激しい業界では、顧客満足の達成はできていて当たり前になります。例えば多数の本や雑誌などで紹介されているリッツ・カールトン・ホテルの企業理念に記載されているサービスバリューズを読むと、通常の顧客満足を超えたサービスを提供するための心構えがわかります。

 

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リッツ・カールトンのサービスバリューズの一部

 

   出典:ザ・リッツ・カールトンのWebsiteより転載

²  私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲得します。

²  私は、お客様の願望やニーズには、言葉にされるものも、されないものも、常におこたえします。

²  私には、ユニークな、思い出に残る、パーソナルな経験をお客様にもたらすため、エンパワーメントが与えられています。

²  私は、「成功への要因」を達成し、ザ・リッツ・カールトン・ミスティークを作るという自分の役割を理解します。

²  私は、お客様のザ・リッツ・カールトンでの経験にイノベーション(革新)をもたらし、よりよいものにする機会を常に求めます。

²  私は、お客様の問題を自分のものとして受け止め、直ちに解決します。

・・・・・以下、割愛

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サービスバリューズの4番目、“私は、「成功への要因」を達成し、ザ・リッツ・カールトン・ミスティークを作るという自分の役割を理解します。”のミスティークとは神秘性で、最高のサービスに位置づけられています。ちなみにサービスの第一段階はインフォメーションサービス、お客様にインフォメーションされて提供すること。第二段階がインテリジェンスサービス、お客様が欲しているのをインフォメーションされる前に提供すること。第三段階がリッツ・カールトン・ミスティークで、お客様自身が欲していることに気付いていない、提供されて初めてお客様自身も欲していることに気が付くサービスです。

2番目の“私は、お客様の願望やニーズには、言葉にされるものも、されないものも、常におこたえします。”を含め、「どうしたら顧客が望む夢を実現させてあげることができるのか?」もしくは「どうしたら顧客の課題を解決させてあげることができるのか?」などを考えて顧客を成功に導くという、カスタマー・サクセスを実現するための内容になっていることがわかります。

また1番目の“私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲得します。”は、顧客にファンになってもらい顧客と長期に継続した関係を築くことで、結果として11人の顧客から受け取る売上金額合計から、その顧客を獲得・維持するための費用合計を差し引いた「累積利益額」、LTVlifetime value:顧客生涯価値)の最大化を実現することにつながっています。

 

 では、医療機関の場合のカスタマー・サクセスは何なのでしょうか?

前月のブログにおいて歯科医療のカスタマー・サクセスの取組、お口の健康を維持させること、さらにその先にある身体の健康につなげること、さらにさらに先にある生活の質を向上するという目標を持って取り組んでいる例について紹介しました。医科の医療の場合も、顧客が健康を維持しQOLの高い生活を送ることができるように支援することが、カスタマー・サクセスの取組になるのでしょう。

20196月に岡山県倉敷市の倉敷中央病院(1,166床)が「予防医療プラザ」をオープンしました。その基本方針は以下のとおりです。 

²  倉敷中央病院の高度な臨床医学と最新の予防医学を統合した予防医療を実践します。

²  地域住民に、専門性を生かした身体活動・生活指導などの健康教育を行う疾病予防拠点をめざします。

²  健診および疾病予防に関して、AI等の先端技術活用を推進し、絶えず進歩し続けるよう努めます。

²  常に高い使命感と倫理観をもって質の高い健診を提供し、健康寿命延伸に寄与します。

 地域住民への健康教育から予防医療、そして先端技術活用によって健康寿命延伸に寄与することは、カスタマー・サクセスにつながります。同院は、診療データとの連携によって疾患予備群を確実に拾い上げ、悪化させないための適切な介入時期、実施すべき検査の組み合わせ、あるいは適切な予防方法を割り出し実践した疾病予防を真に効果的に行うことを目指しているとのことです。

 

 同院では予防医療プラザをオープンする約1年前に、処方箋調剤は全く行わず、OTC薬やサプリメント、健康食品を取り扱う薬店を、病院内にオープンしました。この店舗の運営は大手調剤薬局チェーンに委託しています。患者がサービスを望んでいて、かつ医療職がそのサービスを提供した方がいいという思いをもっているにも関わらず、保険上点数が付与されていないようなサービスを提供することが目的のようです。ちょっとした症状(例えば軽い便秘や筋肉痛など)に対するOTC薬の販売、フレイル予防のための骨密度・筋肉量の測定や必要なサプリメント、栄養食品や運動器具の販売、各種健康増進のためのイベント開催など、その活動範囲は多岐に渡っているようです。セルフメディケーションの推進は、保険診療の枠内でのサービス提供が染みついている病院に勤務する薬剤師や他の医療職にとっては、自ら価格を設定し有料で提供するサービスはなかなかできないようです。

 

また同店には、薬剤師と管理栄養士が1人ずつ“医療のコンシェルジュ”として常駐し、処方箋薬とOTC薬との飲み合わせや、食事やサプリメントに関する相談に乗っています。店内には、体重や体脂肪率、筋肉量などが分かる体組成計や、骨密度計を設置しており、有料で測定するサービスも提供しています。

 

 地域の基幹病院が保険診療の限界を認識し、住民の健康をより幅広く積極的にサポートするために、疾病予防拠点や健康サポート薬局と同等の薬局を運営しカスタマー・サクセスを支援する、時代を先取りした優れた取組みだと思います。

*健康サポート薬局:厚生労働大臣が定める一定基準(薬剤師の資質(一定以上の経験年数、研修受講など)、薬局内の設備、アクセスしやすい開店時間の設定など)を満たしている薬局として、かかりつけ薬剤師・薬局の機能に加えて、市販薬や健康食品に関することはもちろんのこと、介護や食事・栄養摂取に関することまで気軽に相談できる薬局。都道府県知事に届出を行った薬局だけが「健康サポート薬局」として表示することができる。