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CSと言えば、これまでの号ではCustomer Satisfaction(カスタマー・サティスファクション)の略である顧客満足の意味で使用してきましたが、最近はCustomer Success(カスタマー・サクセス)やCustomer Support(顧客サポート)の略でも使われています。
カスタマーサクセスは、日本語に直訳すると「顧客の成功」です。「どうしたら顧客が望む夢を実現させてあげることができるのか?」、もしくは「どうしたら顧客の課題を解決させてあげることができるのか?」など顧客の成功の実現という点にフォーカスしています。
顧客の成功とは、ただ単に顧客が期待通りの満足できるモノが手に入った、期待通りの満足できるサービスを受けられたということで実現できるようなものではありません。究極の顧客ニーズの充足と言い換えてもよいでしょう。その意味で「CS:Customer Satisfaction(顧客満足)」や「CS:Customer Support(顧客サポート)」といった概念を超えた概念と言えます。
一例をあげれば、「この車が欲しい」という顧客の声は、「車を所有することで、誰かを同乗させたい」、さらにその先にある「同乗者との恋愛を成就させたい」、さらにさらにその先にある「幸せな人生を送りたい」ということが、根本的なニーズなのかもしれません。売り手として顧客の究極のニーズを探り当て、その実現の支援までトコトンすれば顧客は喜び、お店のファンになってくれるということなのだと思います。図表1のようにカスタマーサクセスとカスタマーサポートと比較すると、目的や取組スタンスの違いが如実にわかります。
図表1 カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い
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カスタマーサクセス |
カスタマーサポート |
目的 |
顧客の成功体験の実現 |
クレーム処理・不満解決 |
取組スタンス |
能動的 |
受動的 |
評価指標 |
売上・解約率 |
対応件数・満足度 |
顧客の成功体験の実現という目的を達成するためには、受け身ではなく能動的に考える必要があります。その場合、時には顧客の要望をそのまま受けることが正しくない場合も出てくるでしょう。
例えば歯の予防医療で有名な山形県酒田市にある日吉歯科診療所は、全ての人に健康なお口で人生を過ごしてもらうことがカスタマーサクセスとの信念で、永年歯科医療に取り組んでいます。地域住民のほとんどが、虫歯などの病気が生じた結果の修復や処置が歯科医療であると思い込んでいる状況下で、歯科医療はお口の健康を維持させること、さらにその先にある身体の健康につなげること、さらにさらに先にある生活の質を向上するという目標を持って35年以上取り組んでいます。対処療法的な虫歯の治療をするだけでは、歯周病が進行してしまい、将来不都合が生じる患者も一定程度出てきます。しかし歯医者にはできるだけ行きたくないと考える人がほとんどですので、歯科医はたとえ本人のためであっても住民から嫌われないように、予防目的の必要以上の来院を求めないこともあるのではないでしょうか。
日吉歯科診療所の永年の取組みのアウトカムについて、ホームページに公表されていますので一部を転載します。“定期的に来院してメインテナンスケアを受けている子供たちにおいては、12歳時に永久歯に一本のむし歯のない人(カリエスフリー)の率90%以上を達成し、歯科先進国のスウェーデンと肩を並べるほどの結果を示しています。ちなみに、日本全体の12歳時のカリエスフリー率は30%程度です。また成人においては、長期にわたりメインテナンスを継続している方は治療後の抜歯率が大変低く、20年以上メインテンスを継続している方については、75歳での残存歯数が平均18本で、厚労省の歯科実態調査における75歳の平均残存歯数8本より、10本も多く残存しています。”
日吉歯科診療所が取り組んでいるメディカルトリートメントモデルは、初期のリスク評価から、個々の患者さんに合わせた予防プログラムの立案、最小侵襲治療などを行い、定期的なメインテナンスに至るまでの流れです。カスタマーサクセスを達成するためには、虫歯の痛みを無くすという課題を短期的に解決することでは不充分であり、お口の中を健康に保つことで生活の質を向上させるという中長期的な目標を地域住民(患者)と歯科医や歯科衛生士などが一緒に協力し合って目指す必要があります。
メディカルトリートメントモデルはサブスクリプション方式の説明で紹介したように、一部の歯科診療所で提供されています。サブスクリプション方式はビジネスモデルの一種で、定額制のサービスです。1回ごとの売り切りによる商品やサービスの提供ではなく、顧客と長期に継続した関係を築くことで、顧客ニーズに対応したサービスを柔軟に提供しLTV(lifetime value:顧客生涯価値)の最大化を目指す方法になります。LTVとは、1人1人の顧客がある商品や企業に対して付き合っている間に支払う金額合計から、その顧客を獲得・維持するための費用合計を差し引いた「累積利益額」です。
カスタマーサクセスを実現すれば、顧客から強い信頼を獲得することができ、アップセルやクロスセルを実施することで顧客単価の引き上げにつなげやすくなります。アップセルとは「より高いものを顧客に購入してもらうこと」で、クロスセルとは「顧客に他のサービスなども併せて購入してもらうこと」を意味しています。顧客との関係を継続することができれば、LTVはますます増加します。一部の歯科診療所は、お口の中を健康に保つという目標を実現するために、拡大鏡や位相差顕微鏡を導入した緻密な検査、プラーク(細菌の集合体)の除去、患者の虫歯リスクに合わせた高濃度のフッ素塗布やフッ素洗口剤の指導等のセルフケア指導など、アップセルやクロスセルを実施しています。
介護サービスでも呼び方は異なりますが、LTVの拡大方法があります。介護保険の給付対象サービスの質と量を高める「上乗せサービス」と、介護保険の給付対象外のサービスを提供する「横出しサービス」です。既に多くの特定施設入居者生活介護の指定を受けている有料老人ホームでは、介護保険の定め以上の手厚い介護サービスを提供しており、追加サービス部分については利用者が全額を負担しています。その他の介護保険サービスにおいても、利用者ニーズに基づいた「上乗せサービス」「横出しサービス」は考えられるでしょう。
公的な医療保険、介護保険の収支は年々悪化し、保険の給付範囲や基準が厳しくなっていく可能性は容易に想像できます。保険外サービス拡大を検討されている医療機関経営者の方にとって、カスタマーサクセスや顧客生涯価値最大化の考え方は参考になるように思います。
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