IMC株式会社  池田医業経営研究所

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医科の領域におけるサブスクリプションとCRM

ブスクリプションのビジネスモデルを導入する企業は増えていますが、一方で撤退例も出てきています。紳士服のAOKIホールディングスは201811月、サブスクリプション型のスーツレンタルサービスの終了を利用者に案内しました。最大の「想定外」は、事前に想定した利用者層と実際の利用者のズレでした。ターゲットはスーツ離れが進む若者に定めていましたが、実際の利用者はこれまで購入してくれていた40代が中心となったため、売上減少のリスクが高まりました。導入にあたっての重要なポイントは、利用者と深い関係を築き、それを活用して複数年に亘って収益をあげながら、追加的なサービスの提供や情報活用で付加価値を生み出すことかできるかどうかの見極めですが、既存利用者の購買行動の変化を予想することはそれ以上に大切です。

 

医科の領域においても、健康診断・人間ドックや会員制の健康サポートサービス、美容整形治療などの自由診療サービスは、利用者との深い関係を複数年に亘って行うため、サブスクリプション方式導入の余地はありそうです。また診療報酬で価格が決められている保険診療についても、定額のサービスで長期間に亘り顧客と継続的な関係を築く項目があります。代表例として、地域包括診療料(月1回、許可病床数が200床未満の病院又は診療所に限定)が挙げられます。

地域包括診療料は、脂質異常症、高血圧症、糖尿病又は認知症のうち2以上の疾患を有する住民が外来患者として、かかりつけ医による疾病管理サービスを定額(1は15,600円、2は15,030円。1は外来診療から訪問診療への移行実績(直近1年間で10名以上等)を評価したもの)で受けるサービスと言えます。医療機関は疾病管理サービスとして最低限、以下のような指導、服薬管理などを提供します。

 

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・患者の同意を得て計画的な医学管理の下に療養上必要な指導及び診療を行う。

・患者が受診している医療機関を全て把握する。

・原則として院内処方を行う。他院で処方されている医薬品を全て管理する。

・医療機関内で検査(院外に委託した場合を含む。)を行う。

・健康診断や検診の受診勧奨を行い、健康状態を管理し健康相談を行う。

・必要に応じ要介護認定に係る主治医意見書を作成。介護保険の相談を行う。

・必要に応じ24 時間対応可能な夜間の連絡先を提供し、患者又は患者の家族等から連絡を受けた場合には、往診、外来受診の指示等、必要な対応を行う。

・抗菌薬の適正な使用の普及啓発に資する取組を行う。等

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医療機関は、1回目の患者からの情報収集には時間はかかりますが、2回目以降は患者と適切なタイミングでコミュニケーションをとり、必要な情報を収集して指導をすればよいので、ある程度は自院のペースで仕事ができるうえに安定的な収入を確保できます。一方で患者の自己負担は増加しますので、そのメリットについて納得のいく説明が必要になります。

 地域包括診療料は対象疾患が限定されているため、診療圏内の一部の住民しか対象になりません。ただ診療圏内の住民から選ばれるかかりつけ医になるために、短期的には不採算であっても中長期の観点で、対象疾患以外の患者についても疾病管理サービスを行うことは戦略として考えられます。

 

地域住民から選ばれるかかりつけ医になるためのヒントとして、日本医師会総合政策研究機構が定期的に市民向けに実施している調査が参考になります。

かかりつけ医がいない人がかかりつけ医機能として望むことと、かかりつけ医を持っている人がかかりつけ医から実際に受けているサービスには差があります。患者のニーズに応えるためには、その差を埋める努力が必要です。

緊急時の連携(差は36.2%)、在宅医療(30)、他の関係職種との連携(29.4)は、特に差が大きくなっています。他の医療機関や介護事業者と機能分担及び連携し、連携状況を地域住民に伝達し安心感を与えることが、かかりつけ医にとって大切なことがわかります。

なお本調査では回答を選択式にしていて限定されているため、住民がかかりつけ医機能に望むこととして他のニーズが必ずあると思います。患者さんの「要望」「不便に感じていること」「不満」を積極的に拾い上げ、改善に結びつける地道な活動を繰り返すことが他院との差別化に繋がるでしょう。

 

 

マーケティングの理論で、CRMという手法があります。Customer Relationship Managementの略であり、「顧客関係管理」と訳されます。その言葉通り、顧客との関係性を構築・管理する方法で、顧客満足度と顧客ロイヤルティの向上を通して、売上の拡大と収益性の向上を目指します。従来の不特定多数の人を対象とするマス・マーケティングから、顧客を特定し、それぞれの顧客の属性に合わせたマーケティングを行なっていく「One to Oneマーケティング」が主流の時代に移ったことにより提唱されました。

かかりつけの患者に対して1対1のきめ細かい対応、継続的な双方向のコミュニケーションをとるために、医療機関もCRMの具体的な手法やアプリケーションシステムは参考になります。具体的には、顧客データベースの管理機能、プロモーション機能、顧客サポート機能の3つに分類できます。顧客データベース機能には、住所や生年月日・性別、保険者名、臓器提供に関する意思表示など健康保険証から入手できる情報の他に、職業や趣味、メールアドレス、家族構成などの顧客の属性、電子カルテ情報(他院も含めた薬歴情報、問診内容や診療時のやり取り等含む)や健診結果の履歴の管理などが考えられます。

プロモーション機能としては、メールマガジンの運営・管理、メールの一斉配信、例えば冬期でしたらかかりつけの患者向けに診療圏におけるインフルエンザの発生状況や予防対策等を知らせることなどが考えられます。顧客サポート機能としては、アンケート機能を活用した患者満足度調査、セミナーやイベントへの参加状況の管理などに活用できます。

 

医療機関において顧客情報は、健康保険証の情報や一部負担金の請求・入金情報(クレジットカード番号等含む)など、他の業界では苦労して集める個人情報を簡単に収集できます。ただその情報の有効活用はまだまだ不充分です。患者や世帯を一人ひとりの顧客として捉え、かかりつけ医として顧客の潜在ニーズに対応するサービスを提供できる余地はかなりありそうです。顧客情報はまさに医療機関にとっての財産ですので、その活用にあたって企業のCRMの取組や個人情報のセキュリティ対策を参考にされてはいかがでしょうか?