休業日:年末年始
対象地域:全国
http://feed.mikle.com/
自院のサービスが患者や地域住民の期待に応え続けられるように、共創(顧客の声を自社のサービス開発や販売促進活動に活かす取組)の必要性や、企業や病院の取組事例を紹介してきました。ただ現実問題として、大きな組織でなくては本格的に取り組むのはなかなか難しい、自院ではとても無理と感じられたかもしれません。人材に限りのある診療所の場合は、最初の一歩として患者や地域住民との積極的な対話を意識されることをお奨めします。対話とは、お互いを理解するために、本音と本音の話し合いをすること、信頼関係を築くためのコミュニケーションです。ちなみに会話とは、日常で話す取り留めのない話、信頼関係がなくても取れるコミュニケーションです。
どのように対話を進めればよいのか? TKC全国会(10,000名超の会員を擁する日本最大級の職業会計人の集団)が出版している『地域から支持・信頼される“地域対話型”の診療所経営』という本の中で、顧問先の診療所の取組事例を紹介していますので参考にできます。
地域住民や患者の声に耳を傾けるというのが「地域対話型」の診療所の基本です。「患者の声は日々の診療で自然と聞いているはずだから大大丈」と考えられる方が多いのではないかと想像します。日々の診療のなかで医師本人のもとに届く声は非常に限定的です。医師と比べて話かけやすそうな看護師や受付なども、患者が勇気を出して要望を伝えてくれれば耳を傾けますが、自らが積極的に患者の要望を聞き出すようなことまでは、おそらく普段していないのではないでしょうか。患者の声を集めることすら不充分なわけですから、ましてや潜在的な患者である地域住民の声を集めることはできているとは言えないでしょう。
最初に紹介する事例は、静岡県浜松市にて地域のかかりつけ医機能を果たしている「桜町クリニック」(医療法人社団エスケーアール)です。経営理念として「患者さまを第一に考え、親身の医療を行います」「患者さまの要望、地域の要望にお応えします」「地域社会に貢献してまいります」という三つを掲げています。ホームページには、“ここに掲げる理念は、桜町クリニックを根本から支える行動の指針です。これらは、けっして壁に掲げた理想ではなく、ここに働く全職員の心そのものです。”との記載があり、院長の強い決意を感じ取れます。具体的な活動としては、地域のニーズを探るために、開業前には近隣の住宅を戸別訪問しアンケート調査を実施、開業後は会員モニター制度、月に2回のメールマガジンの発行(2002年8月26日創刊)やアンケート調査を実施するなどしています。アンケート結果で、患者がカルテ、レセプトについては約7割、領収書内容に至っては9割の方が情報公開を求めていたことから、情報開示や開示内容の理解が難しい場合のサポートを積極的に実施しているようです。また病気の急性期・回復期、もしくは他児への感染の可能性のために保育園・幼稚園に登園できない児を預かる病児保育室を運営しています。1-2名の児に1人の職員が対応する手厚い保育を行い、保育士、看護師、医師という専門職が対応することにより、利用者に安心を与える環境を整えています。利用定員は1日6人で、年間延べ1,200人を受け入れ、地域住民にとって不可欠なサービスになっているようです。
次に広島市の「二宮内科」の取組事例です。5つの医療機関と9つの介護事業所で構成する医療法人社団恵正会と、特別養護老人ホーム、グループホーム、訪問系サービスを中心としながら、フードバンク事業や地域支援事業を手掛ける社会福祉法人正仁会の2つの法人で構成しています。グループの経営理念として「地域社会に安心を提供し続ける」、基本方針として「地域とのパートナーシップを大切にする」、「その人らしい生活を支援していく」を最重要の価値観として位置づけています。
フードバンクは、「もったいない」の精神で限りある資源を有効活用し地球環境を守ることと、心豊かなまちづくりの創造に貢献することを組織のミッション(使命)とし、4つの事業に取り組んでいます。具体的には、フードバンク事業:食べ物のいのちを大切にするための活動(基幹事業)、世代間交流事業:さまざまな世代の交流により地域を活性化する活動、ふれあいサロン事業:「食べる」ことを考える啓発・実践活動、リサイクル事業:廃棄物の削減を目的に3R(リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle))を推進する実践活動です。地域の食品関連企業やスーパー、商店などの協賛を受けて、商品としては扱えないが問題なく食べられる食材を集めて、児童養護施設や障害者共同生活ホーム、生活困窮者支援団などへ無償提供しています。
“地域対話型”の診療所を実践している2か所の事例を紹介しましたが、経営の特徴として、地域や患者のニーズを捉えていること、加えて地域や患者のための何らかの活動・事業を行っていることなどの他に、表のように経営理念・方針を明文化し院内の職員や患者や地域に発信していること、地域住民でもある職員にとって働きやすい環境になっていること、医療の質を担保するために常に新しい知識や技術の習得に努めていること、プライベートが充実していることと、本では整理されています。合計21か所の診療所の取組事例が紹介されていますので、ご一読され、自院に類似した機能や規模、立地の診療所のホームページをご覧になられることをお奨めします。
地域住民にとって健康面で困った時に当たり前に受診できる環境を提供するために、医療機関が健全な経営を心掛け存在し続けることが地域への貢献にもちろんなってはいますが、一歩踏み込んで地域と積極的に対話をする取り組みも検討されてはいかがでしょうか。
表 “地域対話型”の診療所経営の特徴
経営理念・方針の明文化と情報発信 |
何のために開業したのか、何をやりたいかが明確になっており、常にクリニックの情報発信に努めていること |
患者ニーズの把握とその実践 |
地域や患者のニーズを捉えていること。加えて、できれば地域や患者のための何らかの活動・事業を行っていること |
職員の労働環境の整備·改善 |
スタッフが働きやすい環境づくりに努めていること |
健全な医業経営と経営成績の把握 |
過去数年間にわたり、適正な利益を計上していること |
新しい知識・技術の習得 |
常に新しい知識·技術の習得に努めていること |
夫婦や親子関係が良好・プライベートの充実 |
家庭が円満であること |
出所:TKC全国会(2015)『地域から支持・信頼される“地域対話型”の診療所経営』