IMC株式会社  池田医業経営研究所

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お客様との継続的なコミュニケーション-良品計画の取組-

 

「わけあって、安い」をキャッチフレーズにしている株式会社良品計画。2007年度には第7回ポーター賞を受賞しており、『無印良品は仕組みが9 仕事はシンプルにやりなさい』という本でも紹介されているように、仕組みをトコトン作り込み地道に実行している会社です。ノーブランドと言う名のブランド「MUJI(無印良品)」が永年に亘って実現している「本質において高品質、無駄を省いてわけあって安い」の取組みは、「質が高く効率的な」サービスを期待されている医療や介護の分野にも通じるところがありそうです。今回は、良品計画の商品やサービスの開発等のマーケティングの仕組みについて紹介します。

 

良品計画は前号までで紹介した小林製薬やマクドナルドなどと同様に、顧客とのコミュニケーションに力を入れています。具体的には、「声ナビ」「顧客視点シート」「オブザベーション」など独自の仕組みを作り、店舗、電話やメール、ネット上での顧客の声を社内に取り入れ、商品・サービスに反映しています。

まず「声ナビ」という仕組みです。商品づくりにお客様のニーズを直接反映させるために、「くらしの良品研究所 IDEA PARK」というホームページをつくり、お客様の要望を募集しています。要望には販売中の商品のちょっとした改良や、売場から消えてしまった商品の復活、新商品開発などがあります。お客様はホームページにアクセスすれば、自らの要望に対する良品計画の対応方針やその後の対応状況が「見える化」され、お客様と会社を「つなぐ化」されているため、タイムリーに知ることができます。お客様の参加意欲は高まるでしょう。例えば新商品開発の場合、あるお客様が欲しい商品を提案し、他のお客様がその提案されたアイデアに投票します。投票が一定数を超えると無印良品によってデザイン案が複数創られ、お客様に投票して選んでもらいます。一定期間中にデザインやコストなどの要件が全て解決されると商品化され、お客様はインターネットで購入予約をすることができます。お客様は商品企画、その後の商品開発に参加しているので、商品に対する愛着も湧き、購入後におそらく口コミ等で商品を広めてくれる可能性が高まるのではないでしょうか。

次に店頭で寄せられるお客様の意見を各店舗から本部宛に定例報告する「顧客視点シート」という仕組みです。社内ネットワークを通じて日々、お客様から直接指摘された問題点や、お客様の立場から見た課題を店頭から吸い上げ、一個一個をつぶしていくことが、よりよい店や商品づくりのためのルーティンワークとして継承されています。

お客様の声を吸い上げる以上、それに対する素早い返信も重視されており、特にお客様からの質問については48時間以内の返信をルール化しているようです。またスピーディな対応とともに、悪い情報を早く明らかにしようという企業体質も定着しており、リコール情報などの重要な情報はより素早く開示し、長く継続して掲載しています。

類似した取組みを保健・医療・介護分野で探してみると、例えば石川県七尾市所在の社会医療法人財団 董仙会の恵寿総合病院を中核とする董仙会・けいじゅヘルスケアシステムが開設した医療機関としては全国初となるコールセンターがあります。当法人は、医療・介護・福祉など幅広いサービスを地域住民に提供しており、コールセンターにおいて相談、苦情、問合せ、予約、申込み、様々な情報照会など総合的な対応を行っています。コールセンターという形式を採用していなくても、電話やインターネット、直接の医療相談、医療機関内においた投書箱で、患者さんや来院の方からの意見を収集している医療機関は多くあります。ただ私がこれまで訪問した病院のホール等に掲示されている投書箱の意見に対する医療機関サイドの回答をみると、月に1回の回答がほとんどで、多くても月に2回程度の間隔でまとめて検討し回答しているようなところが多かったです。平均在院日数の短い急性期病院などでは投書した患者等の関係者が、自分が投書した意見への回答を見ないまま退院してしまっているようなケースが多いのではないでしょうか。

介護事業まで展開している医療機関では、行政の「地域包括支援センター」の受託をしているところもありますが、介護、福祉、医療に関することなど、地域の高齢者のお困りごとについて情報収集することができます。委託費が不充分との声を聞くことが多いですが、地域の潜在的なお客様の声を吸い上げる手段としては有効でしょう。

 

 最後に「オブザベーション」という方法です。お客様自身が気付いていない潜在ニーズを捉える、声ナビには出ていないニーズを発掘する仕組みです。具体的には、一般消費者の自宅を訪問し、生活の様子を全て写真に撮らせていただく。社内に持ち帰って写真を参考にして、生活の基本となる本当に必要なものを本当に必要なかたちでつくる、シンプルで美しい商品をつくるという無印良品のコンセプトに基づいて新商品を開発します。

保健・医療・介護分野に当てはめると、例えば保健師の地区活動が類似しています。何らかの要請があった個人に対して援助対応するだけでなく、受け持ち地区に住む全ての人々の家庭を訪問し、健康診査や健康相談などを通して援助を求める手段を持たない人や、援助の必要性に気づいていない人を見つけ出し、ヘルスケアサービスに結び付けています。地域住民のニーズを探り、既存サービスの改善や新しいサービスの開発を図るという点で、保健師の持っている情報はかなり貴重だと思います。

 図は、経済産業省、農林水産省、厚生労働省が平成28年3月に作成した「地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集-保険外サービス活用ガイドブック―」に掲載されていたものの簡略版です。2025年に向けて、医療保険財政、介護保険財政が更に厳しくなるため、保険サービス部分の収入の伸びは期待しづらくなります。中長期的に保険外サービスに活路を見出すとした場合、患者及び利用者並びに家族・介護者のニーズを把握するための仕組みづくりについて、他産業の取り組みなどを参考にして検討されることをお勧めします。

 

*ポーター賞は、製品、プロセス、経営手腕においてイノベーションを起こし、これを土台として独自性がある戦略を実行し、その結果として業界において高い収益性を達成・維持している企業を表彰するため20017月に創設。名前は、ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授に由来。

 

図 公的保険外のサービス切り口 割愛