IMC株式会社  池田医業経営研究所

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医療に必要なマーケティング 攻めの接客

本を購入する際にアマゾンを利用されている方は多いのではないでしょうか。人口減少や活字離れ、アマゾンなどネット書店の影響で、本屋さんの閉鎖が増加し、全国の書店数は2000年の21,654店から2017年5月時点には12,526店と4割強も減り、書店がない自治体も増えてきています。

医療機関の経営は厳しくなってきたと言われていますが、本屋さん、ガソリンスタンドなどの小売業やサービス業の競争環境と比べれば、まだまだ大変ではないことはご理解いただけるでしょう。成功している小売業やサービス業の経営者は、厳しい経営環境の中で日々切磋琢磨しています。マーケティング活動に関して医療機関経営にとっても参考になりますので、具体的な事例を紹介していきます。

 

今回は、あるスポーツ店の取組です。そのスポーツ店は、毎朝の開店前、店の周辺の掃き掃除から始めます。お世話になっている地域に少しでも貢献するという目的のためです。従業員は「なぜそんなことまでやらないといけないの?」と最初は考えと思います。ただやっているうちに、地域の住民から感謝の言葉がかけられることが増え、やりがいを感じるようになります。

医療機関においては、医師は感謝の言葉をいただく機会は比較的多いかもしれませんが、他の職員はそのような機会は相対的に少なく、どちらかと言えばクレーム等を受けるケースの方が多いのかもしれません。顧客満足度向上というと堅苦しいですが、どうすれば患者さんから感謝されるのかを、全職員で考えてみることも大切なのかもしれません。

 

開店後の店頭では、初めて来店した顧客には、なぜ当店を選んできてくれたのかを必ず確認するようにしています。中には、自らが認識していなかった理由で当店を選んでもらえている可能性があります。新たな強みを発見できれば、その強みをPRすることで新たな客層を獲得できる可能性が拡がります。

医療機関においても、患者さんに加えて、紹介先の医療機関や介護事業者に確認してみると、想定していなかった発見があるかもしれません。

 

接客においては「お客さんの欲しい」商品ではなく、専門家として「お客さんのためになる」商品をお奨めしています。最近は、お客さんは価格やサイズ、直接見た印象などを確かめる目的で来店し、実際の購入はネット通販の場合が増えているようです。お客さんの商品知識は、店舗の職員よりはおそらく劣りますし、ネット詐欺にひっかかるような方も一定割合いらっしゃることを考えると、お客さん自身の選択はベターかもしれませんが、必ずしもベストではない場合もかなりあるのではないでしょうか。お客さんが店員に相談することで得られる価値を納得すれば、お得意さんになり口コミを拡げてくれます。

医療の場合でも科学的に根拠のない治療法や健康情報を積極的に選択している患者さんもいることから、医師がかかりつけ医として、普段から週刊誌等で話題になっている治療法について職員を使って情報収集し、診療時及び広報誌などで「タイムリー」に積極的に正しい情報を発信すれば、患者さんからの信頼は高まるのではないでしょうか。

 

「お客さんのためになる」商品を自信をもってお奨めするためには、お客さんのことをよく知らなければできません。このスポーツ店では、お客さんの情報をカルテの様に書き込んでいます。例えば陸上選手の場合は、購入商品だけではなく、練習場、参加大会、タイムなどまで把握し、お客さんに必要な商品を総合的に提案し、お客さんとの信頼関係を深めています。医療機関の場合は、健康保険証の情報から患者の住所、年齢、勤務先(業種)等が簡単に把握できます。その上、かかりつけ医であれば、家族の状況や通院のための交通手段、他に通院している医療機関や利用している薬局、健診の結果などまで把握することができます。他の業種では通常は知り得ない顧客情報を得ることができるのです。ご覧になられた方もいらっしゃるかもしれませんが、2014年10月27日放映のNHKの番組「プロフェッショナル仕事の流儀」において、口の中の写真やレントゲンを各患者にそれぞれ10枚以上撮影、唾液の検査を行うなど、ありとあらゆる手を使って個々人の口の中の状態を知らせ、本人に意識してもらうような予防医療を徹底している歯科医師が紹介されていました。日本医師会では、かかりつけ医を「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と位置づけています。かなりハードルは高いですが、患者さん個々人の背景や要望を把握し、それぞれに適合したサービスを「待ちではなく」、予防段階から提案し住民の健康を守ろうとする姿勢を徹底して見せれば、かかりつけ医として他の医療機関との差別化は成功するのではないでしょうか。

 

一度、お客さんになった方には、再来店を促す努力をします。例えば、購入した際に次回の買い替えのタイミングを必ず案内します。また何か困ったことがあったら、「無料相談にのる」旨を伝えておきます。スポーツ店の場合は、気に入らないことがあれば競合店やネット販売にチェンジされるリスクが常にあります。お客さんは不満を抱えたとしても多くの場合は、何も言わず店舗から離れていきます。どうすれば防止できるのか? 医療機関についても同様の課題はあるはずです。例えば、かかりつけの患者さんの予防接種や健診などの受診状況は把握されていらっしゃるでしょうか? 未受診の場合に、確認の連絡などされてますでしょうか? 私がこれまで受診した医療機関で、そこまで行っているところはありませんし、間接的に聞いたこともありません。そこまで努力しなくても、医療機関の経営は何とかなっているわけですから、まだまだかなり恵まれているのではないでしょうか。

 

最後に、順序は逆になりましたが、なぜスポーツ店でそこまで徹底してできているのか? それは会社が「商品を購買いただくことはお客様の体の一部に関わらせていただくこと。最後までサポートして、関わることに喜びを感じられること。」という理念を掲げ、従業員のモチベーションを高めているからでしょう。イソップ寓話の「3人のレンガ職人」の話をご存知の方は多いと思いますが、理念を示すことで仮に単純な作業でも仕事の意義が理解でき、「やらされ仕事」ではなく「自分の仕事」に変えることに成功していること、店長自らが率先垂範で取り組んでいることからです。

 

今回の事例の内容は皆さんにとっては当たり前のことかもしれませんが、わかっていることと、できていることの差は限りなく大きく、仮に自分はわかってできていても、職員ができるまで徹底させることの難しさは痛感されていらっしゃるのではないでしょうか。職員が納得できる理念を掲げたうえで、「神は細部に宿る」という言葉があるように目の前の些細なことからひとつひとつ経営者自らが実践していくことが大切です。

なお今回の事例は、雑誌「商業界」2017年4月号を参考に取り上げさせていただきました。