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『医療はサービス業』という表現には、まだまだ違和感を覚える方もいらっしゃるでしょう。医療法の考え方では医療はあくまで非営利であり、「サービス業」という呼び名は相応しくないと感じるからかもしれません。ただ日本の公的統計における産業分類を定めた日本標準産業分類によれば、医療業は医師又は歯科医師などが患者に対して医業又は医業類似行為を行う事業所及びこれに直接関連するサービスを提供する事業所であり、病院や診療所はここに分類されています。医療機関は「医療」という専門サービスをお客様に提供する一種のサービス業という見方です。
医療機関の経営者の方々ならば『マーケティング』という言葉はおそらくご存知でしょう。マーケティングには4つの要素があり、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の頭文字を取って4Pと呼ばれています。4つのPをお客のニーズに合うように上手に組み合わせることができるかどうかが、お客様に選ばれるために重要になります。前号まで医療サービスの価格についてみてきました。医療機関の収入のほとんどは保険診療であり、サービスの価格は診療報酬制度に基づく公定価格(診療報酬点数)により決められていて、個別の医療機関が独自の価格設定はできません。そのため医療機関がお客様に他の医療機関との違いを打ち出す方法は、医療行為を含むサービスの内容やその質(Product)、自宅や最寄駅から近い・遅い時間まで開業している等のアクセスの容易性(Place)、PRの仕方(Promotion)などになります。今号からは、サービス業である医療機関のマーケティングについて考えてみます。
まず医療機関におけるマーケティングの組み立てについては、医療の特性のほかに、物財(例えば、テレビやパソコン、自動車等のいわゆる物)とは異なるサービスの特性、具体的には無形性、同時性、異質性、消滅性の4つが代表的な特性を理解しておく必要があるでしょう。
●無形性:商品としての物財とサービスを比較した場合の最大の違いは、物財が原則として有形の物であるのに対して、サービスは無形のモノとして提供されるという点です。そのためサービスの提供において品質を管理するには、物財における品質基準とは異なる基準が必要になります。品質には、以下のような3つの要素があります。
◆探索的品質
お客様がある商品を購入しようとする場合は通常、その品物の機能やデザイン、価格などについて、他の商品と比較しながらその商品の品質を判断します。このように購入前に評価できる品質のことを探索的品質といいます。
◆経験的品質
実際に購入した商品を使用して、はじめて得られる品質のことです。たとえば新発売のビールが、自分が期待する品質を満足しているかどうかを知るためには、それを実際に飲用してみるしかありません。
◆信用的品質
健康食品のようなものは、実際に効果があるのかどうか評価することは難しいです。商品の購入後あるいは消費後においても正しく評価できるとは限らないのが信用的品質です。
これら3つの品質のなかで、経験的品質と信用的品質はその評価について、より個人差が大きくなります。サービスの場合、無形性という特性から、お客様にとってはこの2つの品質が重要になります。一方、有形の商品を選択する場合にはまず探索的品質、次に経験的品質が影響します。医療サービスの場合は、信用的品質が最も大きく影響し、これに経験的品質が加わると解されています。
● 同時性:生産と消費が同時になされることをいいます。物財の場合は、生産される場所や時間と、消費される場所や時間が異なるのが普通です。テレビは工場で生産され、電気屋さんで販売されます。一方でサービスの場合、たとえば理髪店ではお客様と理容師とが同時間に同じ場所にいてサービスが提供され消費されます。医師の診察なども、同時に複数の患者にはできません。TVに出演している有名な医師をスカウトしても、同時にたくさん診ることはできないので、患者増にも限界があるということです。
● 異質性:さまざまな条件によって、サービスの品質に差異が生まれることです。お客様のニーズはそれぞれ異なっていますし、サービスを提供する従業員の技量も人それぞれです。マニュアル化されたマクドナルドの店員の対応も、細かく見ればひとりひとりに違いはあります。またサービスが提供される場所やタイミングによっても品質に差異が生まれます。たとえばピーク時とオフ時とでは、提供されるサービスの品質が異なってしまう可能性はあるでしょう。野外アトラクションなどのように、天候によって大きくサービス品質が異なるケースもあります。以上のようにサービスの異質性が生まれる要因としては、①サービス提供者、②お客様、③環境の3つを考えることが必要になります。すべてのお客様に対してサービスの品質を一定にするためには、この異質性をできる限り少なくすることが求められますが、サービスが提供されるプロセスが複雑な場合は極めて困難です。医療サービスの場合は、サービス提供者である主に医師の技量と、お客様である患者の身体的・精神的状態や診療への協力度合いが、異質性を生むとされています。クリニカルパスはこの異質性を少しでも均質化しようとの考えに基づいています。
● 消滅性:物財と違ってサービスは在庫ができません。テレビは大量に生産し倉庫にしまっておいて順次販売できますが、たとえば飛行機の空席は、飛行機が飛び立ってしまえばその価値は消滅します。消滅性の高いサービスの提供をコントロールするには、①供給能力のコントロールと②需要のコントロールという2つの最適な組み合わせを考える必要があります。
医療サービスの場合、夜間の救急患者が一時的に集中するなど過剰な需要が発生した場合に、医師や看護師等などをタイムリーに増やすことは難しいため、応需はできず他の医療機関に対応してもらうしかなくなるようなケースはよく聞きます。一方で病棟の病床には空きがあった場合には、その供給能力は無駄になり消滅してしまいます。
こうした医療サービスの特性の難しさや、患者等の利用者保護の観点から医療法その他の規定により医療機関に関する広告について制限されてきたことから、医療機関におけるマーケティング活動は一部の美容整形の医療機関を除いてあまりなされてこなかったのではないでしょうか。ただこれからの人口減少による医療需要の減少、インターネット等による医学や医療サービスに関する情報量の増加、平成19年4月1日より施行された改正医療法における広告可能な内容の拡大、医学部の定員増加や新設医学部設置による医師の増加という競争環境が厳しくなる時代に備えるために、マーケティングの知識は間違いなく役立つでしょう。
次号から、サービス業を営む医療機関のマーケティングの価格(Price)を除く3Pを今後実践できるように、製品=サービス(Product)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)について順次解説いたします。
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