休業日:年末年始
対象地域:全国
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*本内容は、2016年8月に社会保険旬報に掲載した内容の一部です。
1.はじめに
(1)公募委員に応募した背景
私は2015年2月1日から千葉市の病院運営委員会公募委員を務めている。これまで仕事として、20年以上、全国の病院の経営改善や中期計画立案などのコンサルティングに携わり、ここ10年は東京大学医療人材育成講座等にて「医療を動かす」ための政策作りの活動にも取り組んでいた。
灯台下暗しではないが、地元の公立病院の経営実態については、あまり関心をもっていなかった。ただ千葉市の財政は平成21年10月に「脱・財政危機宣言」を発するほど危機的状況であり、その後の行財政改革によって回復はしているものの、病院事業においては平成26年度の千葉市立2病院の赤字見込合計額は約21.8億円と、一般会計から34.6億円弱が繰入されているにも関わらず、前年度と比較して大幅に悪化している。毎年積っていく赤字に加え、1病院は老朽化対策が必要であり、万が一にでも現行の診療機能・病床規模を前提にして建替えが進められた場合に、長期間に亘って更に赤字が膨らむリスクがあり、一市民として見過ごせないと考え、委員に応募した。
(2)都市部における公立病院の必要性への疑問
千葉市には千葉大学医学部附属病院、県立病院、公的病院、民間医療法人等が多く立地しており、一市民としてそもそも赤字体質の市立病院が必要不可欠なのかとの考えをもっている。ちなみに隣接する市原市は、千葉市と同様に単独の市で二次保健医療圏を構成しているが、市立病院を運営していない。
公立病院を運営している自治体は医療行政に熱心であるという印象を一般には受けがちであるが、へき地等の不採算地域でなければ医療サービスの提供は、他の開設主体に任せることは不可能ではない。自治体による公営企業の運営能力の低さや一般会計からの公立病院への多額の繰入によって他の行政サービスが犠牲になっていることを考えれば、住民として公立病院の在り方をゼロベースで考えてもよいのではないだろうか。
2.公立病院の存在意義とは?
(1)自治体の財政面からみた公立病院と民間病院の比較
図表1は、厚生労働省が2年に1度実施している医療経済実態調査の病院の開設主体別の1施設当たりの損益及び税金である。最も税金を納めているのは医療法人であり、法人税・住民税の他、固定資産税・都市計画税、事業税を国及び地方自治体に納税している。一方で、公立病院は非課税である。
図表1 病院の開設主体別の1施設当たりの損益及び税金
単位(千円) |
総損益差額 |
税金 |
平均病床数 |
医療法人 |
38,733 |
15,995 |
135 |
国立 |
-2,962 |
0 |
362 |
公立 |
-605,947 |
268 |
262 |
公的病院 |
-133,028 |
9,856 |
348 |
社会保険関係法人 |
15,830 |
0 |
269 |
法人・その他 |
-5,247 |
3,717 |
247 |
出所:第20回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告
-平成27年実施- 中央社会保険医療協議会 平成27年11月
(注)・医業・介護収益に占める介護収益の割合が2%未満の医療機関等の集計
・「公的」とは、日赤、済生会、北海道社会事業協会、厚生連、国民健康保険団体連合会などである。
・「社会保険関係法人」とは、独立行政法人地域医療機能推進機構、健康保険組合及びその連合会、共済組合及びその連合会、国民健康保険組合などである。
・「その他」とは、公益法人、社会福祉法人、医療生協、社会医療法人、その他の法人などである。
・公立病院には指定管理者制度(公設民営)により運営されている病院の税金(法人税、住民税)が計上されている。
机上の話にはなるが、公立病院の役割を民間病院がそのまま果たすことができれば、一般会計からの繰出金(一部は国からの交付金、詳細は後述)がなくなり、医療法人が黒字の場合に納税される法人県民税が増加することで、自治体の財政は潤う。予算を少子化対策や地域包括ケアなど他の行政サービスに振り向ければ、住みよい町づくりができるのである。住民は地方公共団体の主権者であり、医療サービスなどの役務の提供を受ける権利をもつ一方で、住民税や国民健康保険料等でその負担をする義務を課されている。主権者の立場で、自らが住んでいる自治体、私の場合は千葉市や千葉県の医療提供体制のあり方、公立病院の存在意義について考えてみたい。
(2)公立病院が果たしている役割
医療法の第一条の三には、「国及び地方公共団体は、前条に規定する理念に基づき、国民に対し良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制が確保されるよう努めなければならない。」とある。住民の健康の保持に寄与するため、都道府県や市町村は直接、間接に関わらず、医療提供体制の構築に関わらなければならない。
図表2は公立病院が果たしている役割を示す総務省の統計である。「公立病院業界」としてみれば、地域において必要不可欠な役割を担っている病院の割合が高いこと、存在意義をアピールするのは理解できる。しかし一方で、957病院(平成25年10月1日時点、地方公営企業法非適用病院を含む)を個々の病院単位で見れば、必ずしも役割を果たせていない病院も存在する可能性がある。公立病院であるから政策医療を担っており、赤字のためにある程度の税金を投入するのはやむを得ないという先入観を住民としてもつべきではない。特に県庁所在地の市に立地する市立病院の場合は、公的病院等と診療機能が重複し、単に市の一部地域を分担しているに過ぎない場合もある。
図表2 自治体病院の占める割合
病院の機能 |
全 病院数 |
内、自治体立 |
自治体立全病院に占める割合 |
調査時点 |
|
数 |
割合 |
||||
へき地医療拠点病院 |
296 |
183 |
61.8% |
19.1% |
平成26年1月1日 |
救命救急センター |
271 |
98 |
36.2% |
10.2% |
平成26年7月1日 |
基幹災害医療センター |
60 |
31 |
51.7% |
3.2% |
平成26年4月1日 |
地域災害医療センター |
616 |
253 |
41.1% |
26.4% |
平成26年4月1日 |
臨床研修病院 |
2,759 |
615 |
22.3% |
64.3% |
平成27年度 |
地域がん診療連携拠点病院 |
356 |
135 |
37.9% |
14.1% |
平成26年8月6日 |
出所:自治体病院経営ハンドブック 第22次改訂版(平成27年)
(3)公立病院に繰出されている税金
公立病院を運営しているほとんどすべての自治体は、一般会計・特別会計から繰出金を公立病院に投入している。地方公営企業法では、受益者負担になじまない経費については、地方公共団体の一般会計又は他の特別会計が負担するものとし、これらの経費以外の経費については経営に伴う収入をもって賄うべきであるとする、いわゆる独立採算の原則が適用されている。繰出金の基準は総務省が定めているが、実態としては赤字補填になっている場合が多いのではないだろうか。議会に繰出金の根拠を説明するために、税金を使って監査法人等の厳しい第三者の目で精査させ、資料を作らせている例もあるように聞く。
へき地医療の確保、不採算地区病院の運営、結核医療、感染症医療にあてる経費は、患者数の安定的確保が困難であることから、ある程度は理解ができる。一方で病院の建設改良や、通常の診療報酬による収入で賄っているリハビリテーション医療や救急医療、周産期医療、小児医療などが一般会計から繰出されているのは、医療崩壊以降の診療報酬改定での不採算医療へのプラス評価などから考えても理解が難しい。またここ数年、陽子線治療装置やda Vinci(ダ・ヴィンチ)こと手術用ロボットを、民間病院が自力で資金調達をして高度医療を提供している状況を鑑みると、高度医療についても一般会計からの繰出金が必要なのかとの疑問も生じる。
(4)国からの交付税による支援
病院事業に対する一般会計からの繰出金については、その所要額の一部について普通交付税及び特別交付税により財政措置が講じられている。指定管理者制度や地方独立行政法人を設立した場合でも同様である。普通交付税として、平成26年度においては、自治体病院は病床1床あたり707千円、病院事業債の元利償還金の2分の1などが交付されている。また特別交付税として図表3のような基準で交付されている。地方交付税は、所得税や法人税、酒税、消費税が原資になっており、言うまでもなく国民の税金である。
図表3 特別交付税の交付基準
出所:自治体病院経営ハンドブック 第22次改訂版(平成27年)
(5)全国自治体病院協議会の考え
900超の自治体病院を会員とする全国自治体病院協議会による自治体病院と他の病院との相違の説明は図表4のとおりである。
図表4 「全国自治体病院協議会の目指す方向」
自治体病院は、地域住民の健康に責任を持つ自治体の長が議会の議決によって開設されたもので、個人、医療法人、公的・国立等の開設による病院と根本的に相違している。最近、民間病院の経営も急速に悪化してきたことに関連し、公立病院も国立病院と同等、政策医療を中心に行うべきであるとする意見も聞かれる。しかし、自治体病院はその開設の経緯、立地条件、規模等いずれも千差万別である。各々その役割、使命も一様ではなく、当該地域住民の意向により開設されたものであり、その住民の意向に沿って運営が行われるべきもので、一律に政策医療のみを行う等医療の範囲を限定することは適当ではない。なお、高度・特殊・先駆的医療その他政策医療は、一般医療が整っていてこそ成り立つものであり、地域住民のほとんどが一般医療の実施を強く望んでいるものである。
|
出所:全国自治体病院協議会定時総会、平成 12 年 5 月開催
公立病院を運営している立場からすれば、もっともなことではある。自治体として住民に医療を提供する義務があるとすれば、最後の砦として自治体が自ら運営する公立病院でなければその役割を担うことができない可能性も出てくる。またその際には政策医療に限定するのは、スケール・デメリットを考慮すれば現実的ではない。ただ一方で、県庁所在地等の国立・公立・公的病院がひしめいている自治体の場合は、公立病院以外の病院が、一般医療に加えて、定額の補助金を自治体から得て政策医療を併せて行うという選択肢もある。ちなみに平成20年4月1日以降に都道府県の認定が始まった社会医療法人は、医療提供体制に関して都道府県や市町村、公的病院の機能を代替するものとして、公的医療機関と並ぶ5事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療(小児救急医療を含む))を担う主体として位置づけられており、平成27年10月1日現在、256法人が正式認可を受けている。
そのような点も考慮したうえで、公立病院の存在意義について、公立病院改革プランの実行状況を通じてみてみる。
3.公立病院改革プランの実施状況
(1)公立病院改革ガイドラインの内容
平成19 年6月22 日に地方公共団体の財政健全化に関する法律が公布され、自治体本体の財政健全化が求められた。公立病院などの公営企業や第三セクターの会計も対象とする新たな指標を導入するなど、地方公共団体の財政の全体像を明らかにする制度である。
同年12月に総務省は、公立病院改革ガイドライン(以下、「ガイドライン」という。)を示し、公立病院を設置している地方公共団体において平成20年度内に平成21年度から5年間を標準とする「公立病院改革プラン」を策定し、病院事業経営の改革に取り組むことを要請した。
ガイドラインでは、公立病院の果たすべき役割の明確化を求めている。住民として認識しておくべき重要な内容なので抜粋する。「公立病院をはじめとする公的医療機関の果たすべき役割は、端的に言えば、地域において提供されることが必要な医療のうち、採算性等の面から民間医療機関による提供が困難な医療を提供することにある。公立病院に期待される主な機能を具体的に例示すれば、
① 山間へき地・離島など民間医療機関の立地が困難な過疎地等における一般医療の提供、
② 救急・小児・周産期・災害・精神などの不採算・特殊部門に関わる医療の提供、
③ 県立がんセンター、県立循環器病センター等地域の民間医療機関では限界のある高度・先進医療の提供、
④ 研修の実施等を含む広域的な医師派遣の拠点としての機能
などが挙げられる。各公立病院は、今次の改革を通じ、自らが果たすべき役割を見直し、改めて明確化すると同時に、これを踏まえ、一般会計等との間での経費の負担区分について明確な基準を設定し、健全経営と医療の質の確保に取り組む必要がある。」
ガイドラインでは更に踏み込み、「特に民間医療機関が多く存在する都市部における公立病院については、果たすべき役割に照らして現実に果たしている機能を厳しく精査した上で、必要性が乏しくなっているものについては廃止・統合を検討していくべきである。また、同一地域に複数の公立病院や国立病院、公的病院、社会保険病院等が並存し、役割が競合している場合においても、その役割を改めて見直し、医療資源の効率的な配置に向けて設置主体間で十分協議が行われることが望ましい。」との記載があることから、県庁所在地にある市立・県立病院は、その存在意義や役割を見直す必要があるだろう。
(2)5年間の改革プラン実施状況
ガイドラインでは、3つの視点に立って、公立病院改革の推進をしている。第一に経営の効率化、具体的には経営指標の数値目標を自治体が独自に設定し、経費削減や収入確保へ努力することである。第二に再編・ネットワーク化、具体的には病院の統合や基幹病院と日常的な医療を行う病院とに再編する等の取組みをすることである。第三に経営形態の見直し、具体的には自治体による経営を止め、責任者を変えるなどして民間的経営手法等を導入することである。
*文章が多いので、図にしていただくことでも結構です。
改革の3つの視点
経営の効率化 経営指標の数値目標を自治体が独自に設定し、経費削減や収入確保へ努力する |
経営形態の見直し 自治体による経営を止め、責任者を変えるなどして民間的経営手法等を導入する |
再編・ネットワーク化 病院の統合や基幹病院と日常的な医療を行う病院とに再編する等の取組みをする |
総務省によれば、平成26年3月末現在の公立病院(892病院(640団体)、内訳は図表×)における5年間の実施状況等の概要は以下のとおりである。
図表× 設置主体別・経営形態別の公立病院数
出所:総務省「公立病院改革プラン実施状況等の調査結果」(平成26年3月31日)
① 経営の効率化
平成25年度の経常収支が黒字である公立病院の割合や公立病院全体の経常収支比率は、プラン策定前と比較して大幅に改善しているが、前年度からは若干低下している。
経常収支黒字病院の割合 25年度46.4%(20年度29.7%、24年度50.4%)
経常収支比率* 同上 99.8%(同上 95.7%、同上 100.8%)
*経常収支率 (医業収益+医業外収益)×100 100%を超えていれば黒字
医業費用+医業外費用
経常収支が黒字の病院の割合は増えており改善の傾向にはあるが、依然として半分以上の公立病院が一般会計からの繰入金を含めても赤字経営になっている。大まかに見ると、地方の中小病院は医師不足で厳しい状況が続いており、都市部の大きな病院、県立病院クラスは改善傾向にある。後者については、充分な設備や人員などの経営資源をもちながらも、経営意識が低かった病院が、今回の改革プランで多少目覚めたということだろうか。
経営効率化の取組みは、経費の節減合理化や病床利用率向上等による収入の確保などコツコツ行うだけのことではあるが、公立病院の場合は、診療報酬の上げ下げと無関係に年齢とともに賃金が上昇していく公務員の給与や、診療報酬の施設基準の変更に柔軟に対応できない職員定数及び予算、医療や病院経営に必ずしも詳しくない事務職員が定期的に異動して担当する事務部門の能力の低さ、病院運営に必ずしも詳しくない首長が形式的な責任者になっていることなど、根本的な問題を解決しなければ黒字化は難しい。
② 再編・ネットワーク化
平成25年度までに策定された再編・ネットワーク化に係る計画に基づき、病院の統合・再編に取り組んでいる事例は65ケース、162の病院(公立病院以外の病院等を含めると189が参画)である。
再編・ネットワーク化を取り組んでいる事例は、医師の確保等が難しい地方病院がほとんどで、県庁所在地等の公立、公的病院等の急性期病院の統合事例は一部を除き少ない。ただその中で兵庫県は特に積極的に取り組んでおり、図表に整理⇒県立の尼崎病院(500床)と塚口病院(400床)を統合し平成27年7月から県立尼崎総合医療センター(730床)に、県立姫路循環器センター(350床)と社会医療法人製鉄記念広畑病院(392床)が統合再編を検討中、県立柏原病院(303床)と柏原赤十字病院(99床)が統合再編を検討中、小野市民病院(220床)と三木市民病院(323床)が統合し一部事務組合の北播磨総合医療センター(450床)に、加古川市民病院(411床)と神鋼加古川病院(198床)が統合し地方独立行政法人の加古川中央市民病院(600床)に、公立朝来梁瀬医療センター(50床)と朝来和田山医療センター(139床)が統合し朝来医療センターになるなど統合再編を次々と進めている。医療の高度専門化が進み、ある程度の規模がないと医師、看護師が集まらないことや、都市部以外の地域においては複数病院に医師を大学医局が派遣するのは難しくなってきていることから、病院建替えを機にして地域医療再生基金などの飴を使いながら平常時では困難な統合を進めていることが推察される。
③ 経営形態の見直し
平成21年度から平成25年度までに経営形態の見直しを実施した病院は227病院(平成26年度以降に見直しを予定している40病院を含めると267病院)、内訳は次の通りである。
地方独立行政法人化53病院(見直し予定16病院を含めると69病院)
指定管理者制度導入16病院(見直し予定5病院を含めると21病院)
民間譲渡14病院(見直し予定2病院を含めると16病院)
診療所化30病院(見直し予定4病院を含めると34病院)
経営形態の見直しについては、地方独立行政法人化の割合が高い。ただ法人を設立した母体の自治体は、地方独立行政法人が経営悪化した際には資金面の支援をせざるを得ないため、財務面でのリスクは残っている。自治体が自ら運営することを止めた指定管理者や民間譲渡の病院はわずか30しかない。その中で横浜市立みなと赤十字病院や、兵庫県災害医療センターは、救命救急センターの機能を指定管理者として日本赤十字社に任せている。救命救急という政策医療において指定管理者という形態が採用できているわけであるから、経営形態の移行にあたって既存の病院職員の身分の取り扱いという大きな課題はあるが、住民に対する医療の質を担保した上での効率的な医療提供という観点で、指定管理者という形態はもっと採用されても良いように考える。
④ 形だけの全部適用への移行による時間の浪費
経営形態見直しの中には、地方公営企業法の財務適用から全部適用への移行も含まれており、114病院が移行している。ただ医業収支比率が改善した割合は58.9%、悪化した割合は41.1%である。全部適用については、比較的取り組みやすい反面、経営の自由度拡大の範囲は、地方独立行政法人化に比べて限定的であり、また制度運用上、事業管理者の実質的な権限と責任の明確化を図らなければ、民間的経営手法の導入が不徹底に終わる可能性がある。経営責任が明確になっても、そもそも責任をとって途中で退職するような事例や、独自の給与体系を導入している事例もほとんど聞かない。ガイドラインには、「全部適用によって所期の効果が達成されない場合には、地方独立行政法人化など、更なる経営形態の見直しに向け直ちに取り組むことが適当である。」との記載がある。経営効率化のために、病院職員が努力せず、汗もかかず、場合によっては必要な身を切ることもせずに、単に組織形態だけを変更しても単なる問題の先延ばしに過ぎず、時間と税金の浪費にしか過ぎない。
(3)経営改革の先進事例
「経済財政運営と改革の基本方針2015」(平成27年6月30日閣議決定)において「国公立病院の経営改善等について、優良事例の横展開を行う」ために、総務省自治財政局準公営企業室が「公立病院経営改革事例集」をまとめ平成28年3月に公表している。図表5は事例で選定されている20病院であり、公立病院を運営する自治体の議員や職員等の関係者には参考にしてもらいたい。ただし「自分のところとは環境が違う。自分のところではできそうもない。参考にならない。」というような結論を出すための現地視察は、税金の無駄遣いにしかならない。対象病院について事前にできる範囲で調査し、併せて自院の課題を把握した上で解決策の仮説を検討してから実施してほしい。
図表5 顕著な成果を上げている公立病院の事例
経営の効率化 |
再編・ネットワーク化 |
経営形態の見直し |
岩手県立宮古病院(岩手県) さいたま市立病院(さいたま市) 伊那中央病院(長野県) 市立福知山市民病院(京都府) 唐津市民病院きたはた(佐賀県) 沖縄県立南部医療センター・こども医療センター(沖縄県) |
つがる総合病院(青森県) 日本海総合病院*(山形県) 北播磨総合医療センター(兵庫県) 公立世羅中央病院(広島県) |
三浦市立病院(神奈川県) 富山市民病院(富山県) 堺市立総合医療センター*(堺市) 八尾市立病院(大阪府) 神石高原町立病院(広島県) 北九州市立門司病院*(北九州市) 福岡市民病院*(福岡市) 筑後市立病院*(福岡県) くらて病院*(福岡県) 町立太良病院(佐賀県) |
出所:総務省 Website
(注)*は、地方独立行政法人が経営する病院
(4)自治体からの他会計繰入金の改善状況
公立病院改革の成果については、元を質せば自治体本体の財政健全化という点での評価が最も重要であろう。自治体の他会計からの繰入金は、全体で見れば図表6のように、平成26年度は8,260億円と増加し続けていることがわかる。そもそも繰入金の基準について、民間病院等とのイコール・フッティングの観点からすると、より厳しくする必要がある。ガイドラインに記載されている「一般会計等からの繰出は、独立採算原則に立って最大限効率的な運営を行ってもなお不足する、真にやむを得ない部分を対象として行われるものであって、現実の公立病院経営の結果発生した赤字をそのまま追認し補てんする性格のものでないことは言うまでもない。」という点が、どこまで各自治体で徹底されているのか非常に疑問が残る。
例えば、千葉県の場合は、「病院事業会計への繰入金は、総務省通知「地方公営企業繰出金について」に準拠しつつ、本県の特性(県行政の政策的経費等)を考慮し、財政当局と協議のうえ、基準を設けて一般会計から繰り入れを受けている。」と説明されている。県行政の政策立案は健康福祉部が担っており、県立病院の機能は、救急、小児、精神、がん、循環器病など、決して他県と比較して特殊とは言えない。100億円超にも上る多額の繰入をしているが、平成4年9月以降の千葉県議会会議録を検索した限りでは繰入の基準についての議論は全くなされていないため、果たして真にやむを得ない部分を対象として行われているのかどうかは不明である。
公立病院改革ガイドラインでは、「当該病院の果たすべき役割及び一般会計負担の考え方を明記」することが強調されていたが、市町村を先導すべき県が率先垂範できているとは言えず、ふがいなさを感じる。(次回では、千葉市立病院及び千葉県立病院の改革プランの実施状況の詳細について・・・)
図表6 他会計繰入金の年次推移 (単位:億円)
出所:総務省「公立病院経営改革事例集」平成28年3月
注記:地方独立行政法人向けの繰入金も含んでいる。
4.千葉市立病院及び千葉県立病院の改革プランの実施状況
(1)千葉市立病院の状況
千葉市は青葉病院(314床)、海浜病院(287床) の2つの急性期病院を運営している。千葉市においては「千葉市立病院改革プラン(第1期)」を平成22年1月に策定し、Websiteで公表している。
千葉市は財政健全化に向け、図表7のように一般会計からの繰入金を平成21年度から25年度まで削減している。一方で病院の純利益は、平成25年度は赤字に転じており、平成26年度は35億円弱の繰入金をしているにも関わらず、18億円強の赤字を計上している。
参考までに「公立病院経営改革事例集」に取り上げられている、さいたま市立病院(567床)は、病床規模が千葉市立の2病院合計と同等規模であるが、平成25年度の損益は7億円弱の黒字、繰入金は12億円弱である。青葉病院が平成15年に建替えられ、減価償却費及び企業債利息の負担が大きいという事情はあるが、両市の病院運営能力の差は歴然である。
図表7 千葉市立病院の業績推移 (単位:百万円)
千葉市立病院は平成23年度に一部適用から全部適用に変更し、病院局を新設した。全部適用後に一旦業績の悪化を留めることはできたが、平成24年度決算で比較すると100床あたりの繰入金は、政令指定都市の中で 2 番目に高い水準であり、改善の余地はまだまだ多くある。平成26年4月からは元千葉大学医学部附属病院の院長が管理者を務めており、管理者の存在によって千葉大学医学部附属病院からの医師派遣の円滑化という点で期待できる。ただ平成26年度の決算見込の数字はかなり悪化していることから、経営改善という点で大学病院の院長経験が活かされているのどうかはわからない。
千葉市は単独で千葉保健医療圏を構成し、2か所の市立病院の他に4か所の県立病院、2か所の国立病院機構の病院、その他の公的病院、大学病院さらには民間病院が併存している。千葉県保健医療計画(平成23年度~平成29年度)では、千葉保健医療圏における5事業のうちへき地医療を除く4事業を担っている病院をみると、市立病院は周産期及び小児及び災害に事業において重要な役割を果たしているが、他の事業分野と同様に他の病院に役割を依頼することも可能であろう。
図表 千葉保健医療圏において4事業を担っている病院←膨らんでしまうため、上記のコメントだけでも十分だと思います。
|
指定 |
病院名 |
救急 |
全県対応型救急医療連携拠点病院 |
千葉大学医学部附属病院 |
3次救急医療機関(救命救急センター) |
千葉県救急医療センター |
|
救急基幹センター(3次の補完) |
千葉メディカルセンター |
|
2次救急医療機関 |
2市立病院含む27病院 |
|
災害 |
災害拠点病院 |
千葉大学医学部附属病院 千葉県救急医療センター 千葉市立海浜病院 |
災害拠点病院(DMAT指定医療機関) |
千葉大学医学部附属病院 千葉県救急医療センター |
|
災害医療協力病院 |
2市立病院含む20病院 |
|
周産期 |
全県対応型周産期医療連携拠点病院 |
千葉大学医学部附属病院 |
地域周産期母子医療センター及び母体搬送ネットワーク連携病院(※H24.4.1現在) |
千葉市立海浜病院 |
|
分娩を取り扱う一般病院 |
1市立病院含む5病院 |
|
小児 |
千葉県小児救命集中治療ネットワーク連携病院 |
千葉大学医学部附属病院 千葉県こども病院 千葉県救急医療センター |
地域小児科センター |
千葉市立海浜病院 |
|
小児科を標榜する病院 |
2市立病院含む6病院 |
出所;千葉県保健医療計画(平成23年度~平成29年度)
病床機能報告では高度急性期、急性期病床は過剰になっている。千葉市立病院を始めとして急性期病院の規模は、図表8のように200~300床台の病院が多く、各病院が機能分担をするよりは立地を考慮した上で統合・再編したほうが、1病院あたりの診療科ごとの医師数が増加し症例が集約化することで、医師の労働環境は改善する上に医療の質も向上する可能性は高い。千葉市立病院の過去5年間の改革実績をみると、ガイドラインに則り、他の開設主体の病院を指定管理者にして病院運営を任せたり、統合したりするなど抜本的な対策が検討されていてもおかしくないが、公表されている平成27年3月策定の千葉市立病院改革プランをみる限りでは、検討されている形跡はない。
図表8 千葉市の100床以上の病院
出所:千葉県Website 病床機能報告2015年7月1日時点
注:急性期病床が100床以上の病院、リハビリテーションセンター除く
(2)千葉県立病院の状況
千葉県には県立病院が6あり、その構成は、高度・特殊な専門医療を取り扱う4病院(がんセンター・救急医療センター・精神科医療センター・こども病院:千葉市)、循環器に関する高度・特殊な専門医療と地域における中核医療を行う病院(循環器病センター:市原市)、地域の中核医療を行う1病院(佐原病院:香取市)である。私自身、千葉保健医療圏に住み県民税を納付している立場として、県立病院の役割についても知っておく必要がある。
千葉県立病院の経営状況をみると、図表9のように平成22年度以降は純利益はプラスに転じている。その一方で一般会計繰入金は増加しており、平成21年度と平成25年度を比較すると、一般会計繰入金を除いた場合の損失額はほとんど改善されていない。
図表9 千葉県立病院の経営状況の推移
出所:千葉県病院局Website(「H26」は「千葉県公営企業会計決算」より推計、なおH26の「収益」には長期前受金戻入1,154 百万円を含む)
平成26年度に関して病院局のWebsite上で公表している文言は「収益合計は446億1千万円、費用合計は468億1千万円で、当期の純利益は前年度より23億8千万円減少しマイナス22億円となり、5年ぶりに赤字決算となりました。」となっており、一般会計繰入金については一切触れていない。そこを含めた経営状況を県民に示すべきだろう。
① 経営形態の課題
千葉県の病院事業については、「戦略的・弾力的経営を可能とし、人事権等を拡充するとともに、病院事業管理者、施設長等の権限と責任を明確化、強化するために、地方公営企業法を全部適用する。」という平成15年の将来構想中間報告を受けて、平成16年4月から地方公営企業法の全部適用に移行している。千葉市と比較すると全部適用の時期が随分と早いが、これは三重県が北川知事時代に行政評価で一般会計繰入金の多さが問題となり全部適用に変更したことを契機に他県でも移行が一気に進み、千葉県も倣ったのだと推察する。当時、経営状況が都道府県病院でワースト1位であった埼玉県は、病院事業管理者に公立病院の経営改善で実績のあった武弘道氏(当時鹿児島市立病院事業管理者、故人)を招き繰入金の縮減に務め、一定の成功をおさめたのは有名である。一方で、千葉県の場合は財務状況の充分な改善は見られず、平成20年11月の千葉県立病院将来構想検討会報告書には「・・・千葉県の病院事業においては、全体的に見て法律上予定されている全部適用のメリットを十分発揮しているとは言えないと判断しています。」と記載されている。
千葉県病院事業管理者の前任は厚労省で労働基準局安全衛生部長の任にあった方、平成26年4月1日からは前健康局長の方が務めている。官僚の中には経済産業省の古賀茂明氏のような改革派官僚もいるが例外であり、組織内部にいて局長まで登り詰めることは困難である。厚生労働省で幹部にまでなった方は、既存組織の維持には長けているかもしれないが、リーダーシップを発揮して改革を先導することは難しいのではないだろうか。その人選は県民として疑問に感じる。何も個人攻撃をしているわけではない。病院の経営は非常に難しく、その病院を束ねる立場の病院事業管理者は、おそらくプロの経営者でもなかなか務まらない。赤字病院の建て直しの実績や病院の院長経験のない方を、なぜ病院事業管理者に相応しいのかの説明もなく任命し、あたかも天下り人事のポストのように見せてしまっている千葉県の説明不足にも問題がある。
地方公営企業法の全部適用は制度設計上の幅が広いため、移行に際しては形式だけに留まらず、事業管理者の下に「経営に関する権限と責任が明確に一体化する体制」を構築しないといけないが、公立病院の運営経験のない方に体制構築を依拠するのはある意味無責任である。同報告書には、「非公務員型の地方独立行政法人については、今までの地方公営企業法全部適用と異なる形態として、経営の各場面でその効果が発揮できる効率的経営形態の側面が多いので、移行を積極的に検討すべきです。」との記載があるが、その後検討された形跡はない。
② 千葉県がんセンターの問題
腹腔鏡下手術に係る医療事故については、平成27年7月15日の千葉県がんセンター腹腔鏡下手術に係る第三者検証委員会報告書に詳細が掲載されているが、一言で言えば組織としての規律がなかったことが一番と感じる。合わせて院内の内部告発に対し、病院のトップであるセンター長も、同センターを管轄する県病院局の局長も充分な対応をせず、問題を放置し結果的に問題を更に拡大させた罪は大きい。
平成27年4月1日から「がん診療連携拠点病院」の指定の効力を失い、腹腔鏡下手術の不正又は不当な請求を行ったことを理由として、厚生労働省関東信越厚生局から保険診療に係る行政措置を受けた。関東信越厚生局からは、全部適用で管理者をおきながら、「ガバナンス(管理運営)が十分に確立されておらず、質の高いがん医療の提供ができていない」との指摘を受けている。約19億円にも上る保険者等への自主返還は、税金から賄われるのだろうが、この件で病院を管理する立場の人が責任をとったり、給与の返上をしたりするような話は聞かない。県民の立場からすれば、ふざけた話である。
「千葉県病院局中期経営計画(第3次)(平成24年度~28年度)」では、県立病院としてチーム医療の推進、医療情報の共有化や医療事故防止対策の充実等による「良質な医療サービスの安定的提供」、診療報酬改定への対応と請求の適正化等による「経営基盤の確立」が重点項目として記載されているが、単なるお役所の作文でしかないことが今更ながらわかる。千葉県立病院の事業運営のあり方について、外部有識者から幅広く必要な助言等を受けることを目的とした千葉県立病院運営懇談会が設置されているが、平成26年11月以降は開催されておらず、医療事故については議論されていない。問題が生じた時こそ懇談会を緊急に開催し委員からも意見を聴取すべきと考えるが、そのような発想は病院局には残念ながらないようである。
③ 地域医療支援病院としての県立病院
公立病院改革ガイドラインの考え方によれば、県立病院は、がんや循環器などの高度専門医療の最後の砦としての役割を担うとともに、高度専門的見地から地域の医療機関への支援や、今後の医療のモデルとなるべき先進的な取組み等の役割を担うことである。
佐原病院(241床)については、地域医療支援病院ではあるが、香取市及び周辺自治体の地域医療を担っているに過ぎない。同市内の国保小見川総合病院(170床)との統合、香取市及び周辺自治体も含めた一部事務組合もしくは東金九十九里地域医療センターのような地方独立行政法人、その他に指定管理者による運営などの選択肢が考えられる。岩手県のように県立病院が県全域に亘って医療の提供責任を担うのならば県民として理解しやすいが、香取市周辺の県民に限定して医療を提供している佐原病院は、本来ならばサービスの便益を受ける香取市民が財政負担をして運営すべきである。
平成21年3月の千葉県立病院改革プラン(案)では、「県立佐原病院と国保小見川総合病院の再編ネットワーク化については、今後協議する予定となっている」との記載がされていた。「千葉県病院局中期経営計画(第3次)(平成24年度~28年度)」にはその点は触れられておらず、国保小見川総合病院は平成27年3月の基本構想基本計画によれば100床にて建替え予定である。ガイドラインには、「二次医療圏内の公立病院間の連携を強化し、ネットワーク化の実を上げるためには、公立病院の経営主体を統合し、統一的な経営判断の下、医療資源の適正配分を図ることが望ましい。」との記載があるが、残された老朽化した県立佐原病院を果たしてどうするのか、県の考えは全く不明である。
④ 待てない医療を提供する県立病院の立地
千葉県救急医療センターについては、計画では全国的にも数少ない独立型の救命救急センターであり、全県下(複数圏域)を対象とした医療を提供する役割を担っていると中期経営計画には記載されている。平成22年度における患者は、千葉保健医療圏からの割合が62%、東葛南部地域からが17%である。山武・長生・夷隅地域からは8%の患者が来ていたが、「救急医療、急性期医療に軸足を置いた地域中核病院」を掲げている東千葉メディカルセンターが平成26年4月に開設されたため、救急搬送患者は減少している可能性が高い。中期経営計画においては、独立型のメリット・デメリット、千葉保健医療圏の二次救急医療を担う病院に併設する選択肢の検討、県立病院としてサービスを継続する必要性まで含めて検討してもおかしくはない。千葉県のドクターヘリ基地施設は、国保直営総合病院君津中央病院と日本医科大学千葉北総病院の2か所であり、千葉市民と一部の東葛南部の住民のために県立病院がその機能を担う必要があるのかどうか、救急は時間との戦いであり千葉県のドクターヘリ基地施設ではない同院のために、便益を受けていない県民まで含めて一般会計からの繰出金という形で結果的に等しく負担している現状は不公平に感じる。「千葉県の救急医療の最後の砦として、また中心的役割を担うセンター」との文言があるが、最後の砦というのはどういう意味なのか、ドクターヘリ基地施設ではなくてもよいのか、県民が納得できるように抽象的な表現ではなく診療機能面での存在意義を説明してほしい。
がんセンターやこども病院のように「待てる医療」ならば、人口が県内で最も集積し県内の交通の要所(総武本線・外房線・内房線のターミナル駅、東関東自動車道・京葉道路・千葉東金道路の高速道路のジャンクション有)である千葉市に県立病院を配置するのは選択肢として納得感があるが、救命救急のような「待てない医療」を、県立病院として県内に1か所設置するのはそもそも議論の余地があるのではないだろうか。その点では県立の循環器病センターについても同様である。先頃の新聞報道では、「精神病センターと統合して建て替えの方向、2病院が統合することで効率化が図れる」との記事があった。病院局は6月1日に「千葉県救急医療センター・精神科医療センターの一体的整備に係る基本計画等策定業務委託」の委託業者の選定結果をWebsiteに掲載しているが、両病院の一体的整備以外の選択肢に関する検討が充分になされた上での方針なのかどうか、情報開示がされていないため全く不明である。兵庫県の取組などと比較すると、千葉県は公立病院改革ガイドラインにおざなりに取組んでいるようにしか見えない。
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5.公立病院改革プランを実行する上での根本的な問題
(1)経営効率化に不可欠なマネジメント体制の充実
「再編・ネットワーク化」「経営形態の見直し」は改革の有力な手段ではあるが、形態を変えたとしてもマネジメント体制が整っていなければ成果を出すことが難しいのは自明であろう。
平成26年4月にオープンした地方独立行政法人東金九十九里地域医療センターは、「平成27年度には債務超過は免れない、28 年度には約 10 億円の資金不足が見込まれる」との新聞報道がされている。情報公開されている地方独立行政法人の評価委員会の議事録に基づく報道である。様々な事情を勘案しても、開院後2年目にして資金ショートするのは経営陣や経営体制を作った東金市及び九十九里町の行政及び議会の責任は大きい。地方独立行政法人という形態にすればうまくいくわけではないということである。同病院の経営難の原因はうかがい知ることは難しいが、事務部門中心に策定した根拠の薄弱な、実行可能性を充分に考慮していない計画、再生する覚悟や経験に乏しい経営トップなど、一般的な企業人からみると最初から経営がうまくいくはずはないと思われるような事例は結構存在するのではないだろうか。
病院経営はトップの経営チームで決まる
バブル崩壊後、企業再生ビジネスが脚光を浴びたが、「会社は経営者で決まる」と言われる通り、企業再生の成否は経営トップに依拠する部分が大きい。仮に再生計画が立派であっても実行が伴わなければ絵に描いた餅に過ぎない。再生の場合、経営者はスピード感覚があり、従業員の士気を上げ組織を活気づける、強い意志をもってしがらみを断つ、総論賛成各論反対の各論を論破することなどができる人が求められる。公立病院の場合は、それに加え首長や議会、医師派遣元の大学医局などとのコミュニケーション能力も必要である。
病院経営は一般的な企業経営よりもよほど難しく、独立行政法人などに経営形態を変えるということは経営の自由度で言えば、普通の企業経営の条件とやっと同等になるようなもので、その先が本当の勝負である。新ガイドラインでは、「経営感覚に富む人材の登用及び事務職員の人材開発の強化」を掲げているが、例えば病院経営者については、千葉県内ならば公立病院の院長は医師派遣の関係等もあって千葉大学医学部出身者が多いが、改革にあたっては大学系列を超えてでも経営能力のある院長を探したり、院長に加えて看護師のトップや事務部門のトップなどで構成するマネジメント・チームを構成して送り込んだりするなど、相応の体制で臨む必要があろう。病院の場合は、特に職員数に占める専門職である看護師の割合は高く、看護部門は様々な診療部門、診療支援部門との継ぎ目の役割を担っていることから、病院の組織風土を変えるために、そのトップの役割は重要である。また診療部門等に対して、説得力のある医業、財務の指標をタイムリーに示すなど院長の右腕として機能する事務部門のトップの役割も同じく重要である。
数十億円という赤字幅や一般会計繰入金を鑑みれば、高額の報酬を払ってでも優れた経営者、経営チームを送り込んだ方が、住民にとってプラスになるのではないだろうか。
(2)再編・ネットワーク化の実行に絡むステークホルダーの存在
ガイドラインには、「再編・ネットワーク化に係る計画においては、病院間での機能の重複・競合を避け、相互に適切な機能分担が図られるよう、診療科目等の再編成に取り組むこととするとともに、再編後における基幹病院とそれ以外の病院・診療所との間の連携体制の構築について特に配慮することが適当である」と記載されているが、関係者は既存の便益維持に囚われがちになるためなかなか難しいのが現実である。関係者の思惑について、多少ネガティブな見方で、図表10のように整理したみた。関係者の意見を集約するのは並大抵なことではないことがわかる。
図表10 公立病院の関係者の各々の思惑(ネガティブな見方)
住民 |
公立病院周辺に住む人 |
病院が無くなると困る。自宅から遠くなると困る。 何らかの形で残してほしい。 |
医療制度に詳しい人 |
公立病院の赤字は何とか少なくしてほしい。アクセスは不便になっても、病院が再編して医師や症例が集積し、医療の質が上がれば良い。 |
|
その他 |
病院の経営状況はよく知らない。何となくだが公立病院はあってもよいのでは? |
|
医療提供者 |
自治体病院 |
事務職員は定期的に入れ替わるし、改革プランと言われても作るのが大変。年功序列の賃金体系だから人数の多い看護師の平均年齢が上がると人件費は膨らむが、急性期の看護基準を維持する必要もあるし給与などの条件は変えられない。 |
競合する 民間病院 |
赤字なのに、医師確保とか言って高額医療機器を購入するのは何とかならないのか? 民業を圧迫している。 |
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医師会 |
公立病院が経営に熱心になると患者が奪われる。民間の医療法人などに移譲されたり指定管理者になったりしたら競争になって大変。このままで良いのでは。 |
|
大学医局 |
病院が統合すると、派遣先の院長ポストが減るので好ましくない。 |
|
勤務医 |
自治体病院は給料が安いが、医局のローテーションだから仕方ない。 |
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ナース等 |
給与は年功序列だし、長く勤めよう。 |
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市町村 |
首長 |
医療のことはよくわからない。専門家に任せよう。 病院を無くすというのは選挙にマイナスに働くのでは? |
議員
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医療以外にも地域の課題はあるので、時間をさけない。 病院を無くすというのは選挙にマイナスに働くのでは? 公立病院だと議員の顔が利かせられやすいので何かと便利。 |
|
職員 |
公立病院改革プランの策定と言われても、異動してきて間もない自分が作るのは無理。外部委託をしよう。 |
|
都道府県 |
首長 |
国の各省からたくさんの計画策定を求められる。担当部署に任せている。保険者が都道府県にされるのも困ったものだ。 |
議員
|
県立病院はあるが、政策医療をやっているから赤字は仕方がない。県民もあまり要望してこないし、自分の選挙区に関係なければ関心がない。 |
|
職員 |
厚生労働省から医療計画策定を指示されるが、異動してきて間もないからよくわからない。前に作成された計画を修正して良しとしよう。 |
|
国 |
総務省 |
医療は大切だが、自治体が財政危機になったら本末転倒。 |
厚生労働省 |
地域医療構想を作るのは地域事情を理解している都道府県の仕事。 |
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経済産業省 |
機能が重複する一般医療について民間医療機関との競争条件が不公平。 |
前述の「公立病院経営改革事例集」には、より障壁が高い複数の自治体の公立病院の統合例が記載されている。例えば、青森県の6市町を構成員とするつがる西北五広域連合においては、5つの公立病院を一体的に運営する体制を構築するとともに、公立病院の機能を再編成し、中核病院1施設、サテライト病院2施設、サテライト診療所2施設に再編した。この取り組みなどは大いに参考にできる。
公共事業としての病院建築
公立病院の経営悪化の要因として、建築計画の杜撰さが挙げられるケースが多いのではないだろうか。前述の東金九十九里医療センターもおそらく当てはまる。公立病院は建築費に対して交付金が入るため、医療法人等と比較して建築費が高くなっても計画上は返済が可能になりやすい。建設会社は、建築費の坪単価を高めに設定している可能性が高く、建築面積も大きくなり総投資額は膨らむ。地元の議員によっては、病院建設は地域にとって数少ない公共事業であり、建設の他にも、設備、医療機器、什器備品、各種消耗品等々の購入について業者を紹介したりするなど、最終的に事業費が膨らんでしまうことに対して頓着しなかったりするようなケースもあるようである。
民間の医療法人が建築する場合は、資金の貸し手の金融機関等は貸し倒れにならないように建築計画を精査するが、公立病院の場合は最終的には自治体が税金を原資にして返済するという安心感からか、それほどのチェックはされていないように推察する。また自治体内に病院の建築計画を策定した経験のある職員などは通常はいないため、コンサル会社等に事業計画の策定を依頼する場合がある。ただコンサル会社は依頼主の意向に逆らうことは難しいため、実現可能性はなくはないが実行可能性は低い「つじつま合わせの計画」を策定するケースもある。計画をチェックする立場の議会は、病院事業のことがわからない上に、中には公共事業を食い物にしている議員も実際に存在しているため、充分なチェックはなされない。
(3)新公立病院改革ガイドラインと地域医療構想
総務省は、平成27年3月31日に地方公共団体に対して「公立病院改革の推進について」の通知を出し、新たな公立病院改革プランの策定を要請した。新改革プランは、都道府県が策定する地域医療構想の策定状況を踏まえつつ、平成 27 年度または平成 28 年度中に策定するものとしており、地域医療構想と整合的であることが求められている。これまでの「経営効率化」、「再編・ネットワーク化」、「経営形態の見直し」に、「地域医療構想を踏まえた役割の明確化」を加えた4つの視点に立って改革を進めることが必要とされている。
公立病院の「地域医療構想を踏まえた役割の明確化」や「再編・ネットワーク化」は、医師確保が難しく地域医療を守ることに汲々としているような地域、県が大学病院と連携して構想を創り戦略的に再編を仕掛けている地域などでなければ、進展は難しいであろう。特に市町村立の基礎自治体の公立病院は、地元の有権者の顔が見えるために、構想区域という都道府県が定めた机上の圏域内での医療提供体制を最適化するために、機能分担を前提にして自院の診療機能を自ら進んで見直すことは難しいのではないだろうか。
また2025年問題と言われているが、将来の発現していないリスクに対して現状維持志向の強い自治体等の行政機関や公立病院、公的病院等が、思い切った再編案を提示するのはおそらく期待できない。例えば千葉県の場合、千葉県救急医療センター・精神科医療センターの一体的整備が検討されているが、このような中途半端な方策によって新病院が建築された場合は、後戻りが難しくなってしまう。将来の県民、市民の税金負担をできるだけ少なくするために、机上ではあるが大胆な私案を提示したい。
千葉構想区域の公立、公的病院の再編アイデア
当構想区域には急性期機能を担う中規模の公立、公的病院が集中して立地しているところから、ガイドラインの考え方に則って再編を検討した。
病床機能報告による病床機能ごとの病床数と2025 年の必要病床数を比較すると、高度急性期346床及び急性期975床が過剰、回復期1,763床及び慢性期267床が不足すると見込まれている。高度急性期及び急性期の機能を主に担っているのは公立、公的病院であること、老朽化で建替え含む大規模修繕の必要性が高い病院が多いことから、建替えの際の交付金や基金からの補助等による方策を講じて統合再編を積極的に進め、高度急性期及び急性期病床の大幅削減が進められるのではないかと考える。
第一に高度急性期医療を担う病院が高額医療機器や人材の二重投資をしなくても済むように、千葉大学病院と県立がんセンター・こども病院(周産期医療の充実の必要性)を一体化する。名称を仮に千葉大学メディカルセンターとする。岡山大学のメディカルセンター構想よりも、構成する病院の機能に違いがあるため、機能分担がしやすいように思われる。
第二に、急性期・回復期の機能分化を円滑に図れるように、千葉市立青葉病院と地域医療機能推進機構千葉病院も一体で運営する。後者が市立病院の指定管理者となり、急性期以上の機能は設備等が新しい青葉病院が担い、地域医療機能推進機構千葉病院は回復期の機能に特化し機能分担をする。
第三に美浜区エリアについては、千葉市海浜病院と千葉県救急医療センター、千葉県精神科医療センターを一体で建替えし、救急及び周産期の急性期機能を担う病院とする。併せて精神科を標榜し、総合入院体制加算を算定できるいわゆる総合病院にする。運営は県と市が設置者となる地方独立行政法人が行う。
対象としている病院は、すべて千葉大学の関連病院なので、千葉市及び千葉県、千葉大学との緊密な関係が構築できれば、医師の引き上げリスクは低いように推察する。
なお、構想区域内で大幅に不足している回復期及び慢性期の機能については、民間の医療法人等に任せるのが望ましい。大都市圏を除けば患者が減少している地域が全国的に広がっており、既にいくつかの地方の有力医療法人が生き残りのために大都市圏に積極的に進出している。千葉市内の既存医療法人による回復期機能の増床が困難な場合でも、担い手は現れるであろう。医師、看護師等の人材が不足している千葉県にとっては、地方の人材の流入は望むところでもある。
図表11 千葉構想区域の公立、公的病院との立地と再編案
11 |
12 |
8 |
7 |
5 |
10 |
約40km |
9 |
6 |
3 |
4 |
2 |
1 |
出所:千葉県Website「千葉圏域(千葉市)における医療機能ごとの病床の状況」
病床数は、2015年7月1日時点の数値。
6.最後に 自治体の医療行政の在り方
(1)都道府県の役割・責任の増大
平成26年6月に地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律が成立し、地域医療に関する都道府県の権限・責任はこれまで以上に強化されている。
都道府県内の各構想区域の地域医療構想の策定にあたっては、関係者間で協議する場(地域医療構想調整会議)を運営する役割、地域医療介護総合確保基金から財政支援措置を講じる役割、医療機関に対して要請・指示・命令などの権限を行使していく役割が期待されており、地域医療構想を適切に実現していくためには公立病院の位置づけの見直しは必須である。そのためにも都道府県は管内市町村の公立病院の新改革プランの策定に適切に助言することに加え、特に再編・ネットワーク化については、自ら調整に乗り出すなど積極的に参画すべきである。特に建替えは、当該病院の役割を改めて検証する重要な機会である。安易に現状追認で建替えを行えば、その後の医療需要や経営環境の変化に対応できないリスクが高まる。新ガイドラインでは施設の新設・建替えなどにあたっての都道府県のチェック機能を強化することが記載されており、都道府県は地域医療構想との整合性などを検討のうえで地方交付税措置を行う。そのため各都道府県内では、市町村担当部局、県立病院担当部局、地域医療構想担当部局が、連携して取り組む必要がある。地域医療構想の策定、実行にあたっては、まさに都道府県の実力が問われる。
千葉県庁の課題
地域医療構想の策定にあたっては、まずは新公立病院改革ガイドラインに沿って県立病院の役割の明確化をすることが必要であろう。千葉県においては、『「新公立病院改革プラン」の素案策定及び改革プランに基づき具体的かつ実効性のある病院経営改善を実行するための企画』について3月にコンサルティング会社に外部委託を決めている。全部適用にしてから10年以上経過し、病院局経営管理課経営企画戦略室という部署がありながら、内部で計画立案ができないのは理解に苦しむ。市町村と異なり、健康福祉部に医療福祉政策課や医療整備課のように医療政策や医療資源の整備に関わる専門の部局もあり、複数の病院を運営しており共同購買等のスケールメリットも追求できる。保健所を通して県立病院が立地する構想区域の医療提供状況等の情報もとりやすいはずである。
千葉県の場合は、千葉県がんセンターの事件を含めて、ガバナンスのレベルの問題があることから、現在の組織体制そのものを見直すことは必須である。
(2)保健医療介護福祉の提供体制と負担をトータルで考えられる地方公共団体に
地方公共団体は、保健・医療・介護・福祉などの行政サービスを住民に提供しているが、厚生労働省が縦割りで政策を作り、自治体は同様に縦割りの組織を作って対応している。おそらくそのほうが国と自治体間の意思疎通がしやすく、政策に紐ついた予算の申請等がやりやすいからだ。
特に病院事業については、地方公営企業会計を一部適用し、基本的には独立採算であるためか、縦割、独立の意識が強いように感じる。公立病院の収支報告を聞いていると、「患者数が増加したことで、医業収益が増加した。」とのコメントが普通にされているが、患者数の増加は自治体として果たして良いことなのかどうかと疑問に感じる。他病院と比較して質の高い医療を提供していることで公立病院である自院のシェアが上昇したのか、それとも住民の健康状態が悪化し総患者数が増加したのかによって異なるが、後者の場合は地域住民の健康を守る自治体としては明らかにマイナスであろう。また国民健康保険の患者数が増加することで、国保財政がマイナスになれば一般会計から繰出しをしないといけなくなる場合も出てくる。公立病院が立地する自治体では、国民健康保険の医療費地域差指数が低いというデータも存在する。公立病院を核にして、保健師が熱心に保健活動を行ったり地域包括ケアの活動が波及したりすることで結果的に公立病院の患者が減少し経営が悪化することは果たして悪いことなのか等々、自治体としてトータルで考える必要があるのではないだろうか。
小さい自治体ではあるが福井県の旧名田庄村(現おおい町)の中村伸一医師は、診療所長と保健福祉課長を兼任することで保健医療福祉の統合し、赴任してから町村合併するまでの15年間(平成3~17年度)における名田庄村の在宅死亡率を約42%に、国保医療費地域差指数や老人医療費、第1号介護保険料を福井県内で最も低いランクに抑えた。人口が多い自治体で同様のことを実行するのは難しいのかもしれないが、縦割部門であっても情報共有し、住民の健康や必要なコストを横串でみるのは基礎自治体のあるべき姿だと思う。
(3)住民の政策立案への積極的な参画
① 行政や医療提供者主導の政策立案
これまで医療提供体制については、主に医療提供者や学者等の研究者、保険者の代表が厚労省のたたき台に基づき審議会で決めてきており、住民の声が反映されてきていたとは言えない。自治体によっては、医療計画などの政策立案過程や、公立病院の建築等にあたってパブリックコメントの機会を設ける場合もある。ただ実態として役所はパブリックコメントを実施したという事実が大切なようで、本気で意見を取り上げるつもりがない場合が多い。パブリックコメントを求める時期は計画がある程度固まった段階であり、そもそも計画の変更をするつもりがないのだ。私も数回出したことがあるが、端から取り上げるつもりがないような回答しか返ってこず、パブリックコメントは意味がない場合が多いと感じている。
住民としては、議員や首長に働きかけるか、私が現在実行しているように病院運営に関わる委員会のメンバーとなって意見を述べていくしかない。ただ千葉市のように住民からの公募委員を選んでいる自治体ならまだ可能性はあるが、医師会や看護協会等の医療関係者で委員を固めている場合もあり、医療提供者の論理、公立病院の院長が同窓の医学部の先輩の場合は先輩には逆らわない、など住民の知らない世界で物事が決まっている場合が多いのではないかと推察する。
② 住民の声を届ける必要性
平成26年の医療法の改正にて、医療法第6条に「国民は、良質かつ適切な医療の効率的な提供に資するよう、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携の重要性についての理解を深め、医療提供施設の機能に応じ、医療に関する選択を適切に行い、医療を適切に受けるよう努めなければならない。」という項が入れられた。
世界に誇るべき国民皆保険と言われているが、保険者はファイナンス面(保険料の集金と給付)以外の機能を充分に果たしているとは言えず、被保険者である一般住民は黙って保険料を納めているだけである。将来的に消費税や保険料のアップなど負の分配がなされる状況は明らかであり、住民として行政や医療提供者にお任せではなく、積極的に意見を具申しなければいけないと考えている。私たちは医療サービスを受ける単なる客ではなくて、国民皆保険の資金を提供している当事者である。
平成30年度の地域医療構想を含む医療計画は、将来の日本の医療政策にとって非常に重要な位置づけになるため、計画に少しでも住民の声を反映できないかと、社会人有志からなる地域医療政策実践コミュニティー*において、「地域医療ビジョン/地域医療計画策定ガイドライン」(RH-PACガイドライン)を作成した。多様なステークホルダー、具体的には患者・住民、医療保険者、市町村関係者、医療提供者などに役立てるためのもので、私もその作成に加わった。一人でも多くの住民が、納税者でありかつ健康保険料を支払っている被保険者として、医療システムを自分事として捉え、自らが居住している自治体の医療政策に何らかの形で関与するようにしなければ、公立病院の改革は進まないのではないかと危惧している。
*地域医療計画実践コミュニティー
・患者支援者、政策立案者、医療提供者、メディアの4つのステークホルダーからなる約100人の有志によって、あるべき地域医療計画の姿を検討し、社会に発信しようとするプロジェクト。2014年4月から活動し、「地域医療ビジョン・地域医療計画ガイドライン」の策定に取り組んできた。東京大学公共政策大学院医療政策教育・研究ユニット(Health Policy Unit=HPU)が運営する人材養成講座「医療政策実践コミュニティー(Health Policy Action Community=H-PAC)」の参加者、H-PACの前身である東京大学医療政策人材養成講座(HSP)参加者、都道府県医療計画担当者などで構成している。
【参考文献】
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伊関友伸(2014)『自治体病院の歴史 住民医療の歩みとこれから』三輪書店
伊関友伸(2014)「公立病院改革ガイドラインは自治体病院に何をもたらすか」『病院』Vol.74 No.9
猪野積(2015)『地方自治法講義〔第3版〕』第一法規
印南一路(2011)『生命と自由を守る医療政策』東洋経済新報社
大沢博(2014)「新しい公立病院改革ガイドラインの概要について 各自治体病院の改革プランの成果と課題を踏まえて」『病院』Vol.74 No.9
金川佳弘(2008)『地域医療をまもる自治体病院経営分析』自治体研究社
産業再生機構(2006)『事業再生の実践 第Ⅲ巻』商事法務
自治体病院経営研究会編 (2015)『自治体病院経営ハンドブック 第22次改訂版』
世古口務(2014)「[事例]自治体病院の経営改革 意識改革とチーム医療による病院経営改善」
崖っぷち自治体病院の復活」『病院』Vol.74 No.9
東京大学公共政策大学院医療政策教育・研究ユニット(HPU)医療政策実践コミュニティー(H-PAC)『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン 実践編~第2部 千葉県編~』
東日本税理士法人編,日経メディカル開発編 (2015)『病院再編・統合ハンドブック 破綻回避と機能拡充の処方箋』日経メディカル開発
松田晋哉(2015)『地域医療構想をどう策定するか』医学書院
武藤 正樹(2015)『2025年へのカウントダウン―地域医療構想・地域包括ケアはこうなる! 』医学通信社
参考にしたWebsite
総務省、経済産業省、厚生労働省、公益社団法人 自治体病院協議会、一般社団法人 日本医療法人協会、日本医師会総合政策研究機構、
千葉県、千葉市、市原市、兵庫県等